ちょっとお節介させていただきます!〈3〉

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 一人用ブースを出てドリンクコーナーに向かっていると、ペアシートのブース前を通る時にひそひそと話す男女の声がした。  僕の嗅覚が、耳を澄ませろと指示してくる。聴覚に集中しながら通り過ぎると、「ひゃ!!」と女が声を張り上げたと同時に、ドゴンっと何かがぶつかるような音がした。  振り向くと、騒々しく音を立てて、慌てた女が半べそで出てきて、僕にぶつかりながら店を出て行った。本棚で漫画を探している何人かが皆振り向く。  おやおや。男女トラブル? それにしては……。  僕は、サーバーからホットコーヒーが出てくる間、ちらちらと例のブースに目をやったが、しんとしている。他の客も、もう漫画探しに戻っている。気になって仕方がないのは、僕くらいか。  コーヒーカップを右手にしながら、例のブース前で立ち止まって耳を澄ませたが、やはり静まり返っているようだ。僕のお節介は、こんな時に使うべきだろう。「ネットカフェの利用客へ、取材を申し込もうと思いまして」。万が一話せたら、それでいこう。  コンコン、とノックしてみた。が、案の定返答はない。ここは鍵のないブース。開けますよ。  ドアを開けると、予想通り、狭いペアシートに、くの字に倒れ込んだスーツの男が一人。血の気が引いたような顔色だ。 「お兄さん、大丈夫ですか」  僕はカップをモニターの横に置いて、男の頬をペタペタと叩いたが、若干、口をぱくぱくとしただけだった。 「すみません! 救急車を!」  僕は声を張り上げて店員のいるカウンターへ走った。
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