理由

1/2
前へ
/15ページ
次へ

理由

「それは……ご愁傷様、です」    どういう話の流れだと思ったけど、確かに以前優さんと飲みに行った時、「今日玲奈は法事なんだよ」と聞いた気がする。 「幼なじみでね、大学で離れたけど、社会人になってまた遊ぶようになった。でも病気がわかって、あっという間に逝っちゃった。  それで、私の呪いが解けたの」  僕はさぞかし怪訝(けげん)な顔をしてい ただろう。「あ、酔っぱらってないよ、大丈夫」と付け足された。 「呪いって……」 「実の母の呪いよ」  玲奈さんはハイボールの氷を箸で回す。からん、と溶けた氷が崩れる。 「私の母、極端な考えの専業主婦でね。 『女は結婚して家庭に入るのが一番』『学歴より愛想がよくないと』って言われて育って、母のこと大好きだったし、従ってきた。  医学の道に進みたかったけど、普通の会社に入った。母は『若いうちに早く結婚しなさい』って圧をかけてくる。結婚すれば認められるって思ってた」  玲奈さんはひとつ、ため息をついた。 「実際、母は喜んでくれた。けど、今度は『仕事をやめて子供を』って言うようになった。  あれ、って思ったのはその時。母はいつ満足して、私を認めてくれるんだろうって。  ネットで見たら『子供を産んだら義母に二人目、三人目を急かされた』『女の子だと文句を言われる』『産んだ後も成長、学校、受験で他と比較される』……もう、いろんなことが出てきて、頭がパンクしそうだったの。  それで幸せになる人もいる。だけど、私は違う、って気づいた。  そんな時、友達が死んだの。『玲奈はやりたいことやりなよ』って言い残して。彼女、わかってたんだと思う。私は母に愛されたくて必死だったけど、反面、犠牲にしてきたものがあるって」 「犠牲……」  僕は玲奈さんの話に聞き入っていた。  立場は違う。だけどなぜだろう。僕は自分を押し殺して友達に合わせていた頃を思い出していた。 「私、これから大学に入り直して、医者になろうと思うの。  優君のことは人として好きだけど、愛じゃなかった。これ以上、私に付き合わせるわけにはいかない。  体裁を考えて別居婚にしようかと思ったけど、彼は私の話を聞いて、彼なりに思うところがあったみたいで。結局離婚することになったの」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加