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理由
「それは……ご愁傷様、です」
どういう話の流れだと思ったけど、確かに以前優さんと飲みに行った時、「今日玲奈は法事なんだよ」と聞いた気がする。
「幼なじみでね、大学で離れたけど、社会人になってまた遊ぶようになった。でも病気がわかって、あっという間に逝っちゃった。
それで、私の呪いが解けたの」
僕はさぞかし怪訝な顔をしてい
ただろう。「あ、酔っぱらってないよ、大丈夫」と付け足された。
「呪いって……」
「実の母の呪いよ」
玲奈さんはハイボールの氷を箸で回す。からん、と溶けた氷が崩れる。
「私の母、極端な考えの専業主婦でね。
『女は結婚して家庭に入るのが一番』『学歴より愛想がよくないと』って言われて育って、母のこと大好きだったし、従ってきた。
医学の道に進みたかったけど、普通の会社に入った。母は『若いうちに早く結婚しなさい』って圧をかけてくる。結婚すれば認められるって思ってた」
玲奈さんはひとつ、ため息をついた。
「実際、母は喜んでくれた。けど、今度は『仕事をやめて子供を』って言うようになった。
あれ、って思ったのはその時。母はいつ満足して、私を認めてくれるんだろうって。
ネットで見たら『子供を産んだら義母に二人目、三人目を急かされた』『女の子だと文句を言われる』『産んだ後も成長、学校、受験で他と比較される』……もう、いろんなことが出てきて、頭がパンクしそうだったの。
それで幸せになる人もいる。だけど、私は違う、って気づいた。
そんな時、友達が死んだの。『玲奈はやりたいことやりなよ』って言い残して。彼女、わかってたんだと思う。私は母に愛されたくて必死だったけど、反面、犠牲にしてきたものがあるって」
「犠牲……」
僕は玲奈さんの話に聞き入っていた。
立場は違う。だけどなぜだろう。僕は自分を押し殺して友達に合わせていた頃を思い出していた。
「私、これから大学に入り直して、医者になろうと思うの。
優君のことは人として好きだけど、愛じゃなかった。これ以上、私に付き合わせるわけにはいかない。
体裁を考えて別居婚にしようかと思ったけど、彼は私の話を聞いて、彼なりに思うところがあったみたいで。結局離婚することになったの」
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