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秘めていた想い
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れる。
「えと、玲奈さんから話聞いたよ」
「……どこまで?」
優さんの探るような目つきは自信なさげで、さっきの玲奈さんとは対照的だった。
「友達が亡くなったのを機に、自由に自分の人生を生きたいって……。
優さん、それでよかったの?
玲奈さんのこと、好きだったんじゃ」
「嫌いになった訳じゃない」
優さんは座り直して、背筋を伸ばした。
「彼女はずっと、戦友みたいなものだった。
互いに正しいと思ってた人生を生きるための。
彼女はお義母さんの想いに縛られてたし、俺も想いを封じ込めてた――本当に好きな人ができたんだ」
僕の中で、すぅ、と何かが冷めた。
「へぇ……そうなんだ」
放った声は、冷たく聞こえたと思う。
「……正確にはその人のことをずっと好きだったのに、自分の気持ちに蓋をしていたんだ。
離婚式の後、気持ちを伝えに行くつもりだ」
「ああ、そう」
僕は一瞬目を閉じた。
神様、あんまりじゃないか。僕に2度目の失恋をさせる気なのか。
「どんな人なの。どこで知り合ったの。
事と次第によっちゃ、僕、離婚式出ないから。挨拶もしない」
情けないけど、後半は涙声だった。
優さんは正座して僕を見つめている。
ずっと僕だけのものにはならない視線。今度は誰に向けられるというんだろう。
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