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裂人
スマホを見せてもらった。
「さこうど」は「裂人」と書くらしい。
「仲人の離婚式バージョンみたいなもんだ。『きゅうろうきゅうふ』に向けて挨拶をもらえればと思っていて……」
「きゅうろうきゅうふ?」
今度は、「旧郎旧婦」と書くらしい。知らない事だらけだ。
「それより離婚した理由はなんなの?」
優さんは気まずい時の癖で、髪をかきあげた。
「あー、簡単に言うと価値観の不一致、かなぁ。円満離婚で、不倫やDVが原因じゃないから安心してくれ」
困ったような顔で笑う。悔しいけど僕はこの笑顔に弱い。
「そりゃ、優さんに限ってそういうことはないだろうけど……」
「腹減ったな。なんか頼むか」
優さんはサラダやポテト、唐揚げなど次々タップする。
「このくらいでいいか。最近仕事はどうだ?」
「まあぼちぼち……」
「こないだ上司と揉めてたのはどうなったんだ?」
「あ、あれ和解した。今はうまくやってる」
「そりゃよかった」と優しく微笑む優さん。
そうこうするうちに頼んだメニューが次々到着し、優さんは相変わらず聞き上手で酒が進み……。
翌朝。僕の頭はズキズキ傷んでいた。
「飲み過ぎた……」
カーテンの隙間からは明るい光が差している。
スマホを見ると、「裂人引き受けてくれてありがとう! また連絡する。玲奈も感謝してるって」とメッセージが残っていた。
「マジかよ……」
二日酔いの頭で僕は溜息をついた。
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