友達トリオ

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友達トリオ

「ただいまー!!」  突然聞こえてきた大きな声に驚いて、あたしは本の世界から戻って来た。  息をするのも忘れるくらいに夢中で読んでいたから、ゆっくりと深呼吸をした。い草の香りが鼻を抜けていく。ダダダダッと廊下に響いてくる足音に、本を持ったままの姿勢で固まっていると、思い切り障子戸を開け放たれた。  視界に映り込んできた短パンから伸びたヒョロリと細い足。上へと視線を上げていく。黒縁のメガネの奥の瞳と視線が合った瞬間,不審そうに細くなる。眉は思いっきり下がっていく。 「なんだよ、女かよ! 俺、キカ、よろしくー」  いきなり現れて、はじめましてもなく第一声がそれ!? あたしだってキカちゃんだと思っていたのに、男かよ!  そして自己紹介、雑すぎん!? 「きっかー、お友達どんな子ー?」 「おい、アオイ、まずキカのばあちゃんに挨拶してこようぜ」  次々に聞こえてくる声に、あたしは固まったまま動けずにキカと名乗った男の子の方を向いたまま。 「おじゃましまーす」 「あ、待ってよ、ハヅキー」  後から聞こえてきた声はこちらに来ないで遠ざかっていった。 「それ、じいちゃんに渡されたんだろ?」 「え、あ、うん」 「読んだのか?」 「うん、まだ途中だけど、すごく面白い」  舞台はこの町で、もう廃線してしまった電鉄の線路から未来へと飛べるお話。 「じいちゃんになんて言われた?」 「え……、この本を、過去の私に返してきて欲しいって」 「やっぱり」  ため息を吐き出したキカくん。 「じいちゃんさ、俺にも同じようにこの前頼んで来たんだよね。俺は速攻断ったけど」 「……どうして?」 「だって、過去とか未来とかどうでも良くない? 今が楽しけりゃいいじゃん。じいちゃんにどんな悔いがあるのかわかんないけど、なんか面倒くさそう。お前やるの?」 「……や、やるのって言っても、どうやったら過去の洋さんにこれを返しになんていけるの?」  そんなことできるわけない。 「え? ちゃんと読んだ? その本と同じことすればいいんだよ」 「同じこと?」 「そしたら、過去へも未来へも行けるんだよ」  真面目な顔を崩さないままキカくんが言うから、頭の中がますます混乱してしまう。洋さんの孫だから、難しいことを言うのだろうか。 「なになに〜!! なんかおもしろい話してるー? 僕も混ぜてー!」  突然、キカくんの後ろから現れたのは、色素の薄いサラサラの明るい髪色をした男の子。キカくんよりは背が小さくて、ニコニコと目を細めた笑顔が子犬のようにかわいい。 「あ! お友達って女の子なんじゃん! はじめましてー、僕アオイです」  キカくんの前に出てきてぺこりと頭を下げるから、あたしも思わず姿勢を正して軽く頭を下げた。 「あ、涼暮(すずくれ)ミナって言います。よろしくお願いします」 「ミナちゃんだって、ほら、ハヅキも挨拶しなよ」  ぐいっと押されて次に部屋の中に入って来たのは、短い髪がツンツンに立っていて、三人の中で一番背が高い男の子。あたしが見上げると、照れているのか目を合わせてくれない。 「ハヅキ、よろしく」  手短に言われて、あたしは頷いた。 「で? なんなの? その本、マンガ?」  興味津々で近づいてきて、アオイくんがあたしの手から本を取る。パラパラとめくったと思ったら、すぐに手元に戻ってきた。 「文字ばっかじゃん、無理」  首を振って拒否するアオイくんに、キカくんは呆れているし、ハヅキくんは苦笑いしている。  三人はきっと仲のいいお友達なんだろう。見た目や雰囲気は全然違うのに、楽しそうに笑う姿がなんだか羨ましい。 「ミナはもう夏休みなのか? いいよなー、都会は休みが長くて」  キカくんが部屋の中に入ってきて扇風機の前を陣取る。 「えー! もう休みなの!? まじか、俺らなんてまだまだ先だよ?」  アオイくんもキカくんの隣に座って扇風機の涼風争いが始まった。 「あらあらー、こんな狭い部屋に集まっていないであっちにいらっしゃい。アイス用意してるわよ」  和子さんが部屋の中を覗いて手招きしてくれるから、順番に部屋からみんなが出て行って、あたしも本をテーブルに残して障子戸を閉めた。  クーラーの効いているリビングに入ると、畳の優しい匂いは無くなったけれど、暑さを忘れて心地いい。  キカくんは一人がけの座椅子に座ってテレビ前を陣取る。アオイくんはテーブルの奥に座ってきちんと揃えた膝に手を置き、目の前に出されたデザートグラスの中のバニラアイスに目を輝かせている。  ハヅキくんは、そんなアオイくんの前の席に座るように和子さんに言われて、「どうも」と小さく会釈をしてから席についた。 「ミナちゃんも座って」  流れ的に、ハヅキくんのところにいた和子さんが、すぐ隣の椅子を引いてくれて、あたしはハヅキくんの隣に座ることになった。なんとなく、話しかけづらい雰囲気をしているハヅキくん。チラリと横顔を一瞬だけ見て、斜め前のアオイくんへと視線を移した。 「めっちゃおいしいよー!」  満面の笑みで笑いかけてくるアオイくんには、あたしも自然と笑顔になれる。 「なぁ、今日はどこいく?」  バニラアイスを食べながら、後ろ向きのままキカくんがこちらに話しかけてきた。 「暑いから五右衛門公園行こうよー、あそこで水かけ合いっこしよー」 「濡れるから却下」 「は!? それが気持ちいんじゃん!」 「着替えるのめんどい」 「そんなん遊んでれば乾くだろ! ねぇ、ミナちゃんは? 公園に水が流れてる場所があるんだけど、めっちゃ気持ちいいんだよ。行こうよ!」  三人で行くのかと思って、ただ会話を聞いていたあたしは、突然自分に問いかけられて驚いて言葉が出ない。 「無反応ー。はい、却下」 「なんだよー! じゃあどこいくよ?」 「このままここでゲーム三昧と行きたいとこだけど、せっかくだからあそこ行ってみる?」  振り向いたキカくんがニヤリと笑う。
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