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仲間
アイスとクーラーですっかり涼んだはずの体が、もう汗ばんできている。東京に比べれば照り返しも少ないし通り抜ける風が肌に心地いいけれど、歩いていると日差しはやはり暑い。ポケットに入れていたハンカチを取り出して額を拭った。
キカくんの家を出て町の日陰を歩く。車は時折通り過ぎるけれど、歩いている人はほぼいない。
玄関先にまとめられた黒と青と赤ラインに紺色のランドセルを横目に、玄関を出てきた。あれは三人のものだろう。学校から直接ここへ帰ってきたんだろうと思った。
あたしの学校では寄り道はしてはいけないと言われている。塾や習い事のある子だって一度家に帰ってからそれぞれ親に送ってもらうのが普通だ。こっちの学校は、いろいろ違うのかな。そういえば、夏休みまでまだまだあるって言っていた。あたしはズルして早めに休んでしまったけど、向こうの実際の夏休みは来週から、八月終わりまでたっぷり一ヶ月以上ある。
「あの、こっちって、夏休みいつから?」
「え? あーっとね、いつだっけ?」
すぐ前にいたアオイくんが振り向きながら隣にいるハヅキくんに聞いている。
「二十七日からだろ」
「あ、そっか。だってー」
返答をあたしも聞いていただろうと、アオイくんはまた振り返ってニコッと笑った。
そんなに遅いんだ。じゃあ、終わるのがあたしのところよりも遅いのかな。
「夏休みなんてあっという間に終わるんだよ、そんな貴重な休みに変なこと頼んでくるじいちゃんがどうかしてる」
一番先頭で歩くキカくんが、怒ったように腕を組んだ。
「さっきからさ、もしかしてあれの話?」
「そーだよ、他になにがある」
アオイくんにキカくんが振り向いた。と、思ったら、アオイくんがあたしにまた振り返る。
「ミナちゃんも頼まれたの?」
まさか、と顔色を悪くして聞いてくるアオイくんに、あたしは不思議に思って首を傾げた。
「キカのじいちゃんに、命綱もなしに大橋に掛かる柵のない線路を走り抜けろって言われた?」
どんどん血の気が引いて青白くなっていくアオイくんの顔に、あたしは驚いてしまう。
だけど、あたしは、洋さんにそんなことは言われていない。だから、無言のまま首を横に振った。
「言われなかった? 本当に? まじか、よかったね、そんなん言われるの僕だけで十分だよ」
安心したようにアオイくんは少し涙目で口角を引きつらせた。
「いや、さっきの本渡されてた時点でアウトだろ」
歩くスピードは変わらずに、アオイくんの隣のハヅキくんが冷めたように言う。
「あの本を返してきて欲しいって言われなかった?」
ようやく、こちらを振り返ったハヅキくんと目が合う。真っ直ぐな瞳に、心臓がどきりと鳴った。
「……い、言われた」
「だろ? じゃあ、もうミナも俺たちの仲間じゃん」
日焼けした肌に、白い歯を見せて笑ったハヅキくんに、今度は胸がドキドキと波打つような感覚になった。ずっと口を結んで無表情だったのに、その笑顔はギャップがありすぎる。
「今から行くとこは、あの本に出てくる最初の場所。じいちゃんがなにをしたいのかは分からないけど、とりあえず、俺たちはこの夏休み中にあの本の謎を解くんだ。めんどくせぇけど、関わったからには、ミナももう戻れないからな」
キカくんが振り返って立ち止まると、みんなも一度足を止める。円になってこちらを見てくる三人に、あたしは仲間という言葉にワクワクする気持ちと嬉しさが入り混じって、両手を握りしめて全力で頷いた。
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