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「公にはされてないから、今から言うことはオフレコでお願い。私の単なる妄想だと思って聞いて欲しい。
私を指導してくれた恩師がね、事故に巻き込まれて足を怪我して、現場に復帰できなくなってしまったの。
政府からのPPM支給が打ち切られて……でも上半身は元気だったから、本部の内勤として異動した。
勤務地が変わって、私とはしばらく顔を合わせていなかったんだけど。
先日、たまたま彼に会う機会があった」
ミツキは感情を押し留めるように、そっと息を吐き出した。
「私、最初あの人だって分からなかった。
恩師の年齢にしては、異常に老け込んでいるように見えたから。
周りの人は気にならなかったのかしら?
怪我によるストレスのせいとでも思ったかもしれないね。そうであっても不思議じゃない。
でも私……恩師に会ったあと震えが止まらなかったの。
あれは、くすりをやめたせいなんじゃないかって思えて。
PPMは身体の細胞を極限まで活性化させるけど、そのぶん消耗も激しい。
おそらく一定年齢を超えるか、くすりをやめた時点で、人体は限界を迎えるんじゃないかって考えたの。
ね? もしそうだとしたら、チャリオットってそんなにいいものじゃないでしょう」
羨ましがる必要なんかないのよ、と彼女は言った。
「私は政府に管理され続ける。この先ずっと、くすりによってね」
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