キミのこころを知るくすり

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酔いはとっくに醒めた。 ただ胃のあたりがぐるぐるして気持ち悪い。 ひどい気分だった。 今更ながら、もう一度あの場面に戻してくれと願ってしまう。 彼女とふたりきりで車内にいた。 問いかけられた。 大切な問いを無言で返したあの場面に。 靴を脱いで自分の部屋へ向かいながら、トウヤは考える。 チャリオットとフール。 もしかしてこの国は、この世界は、チャリオットの犠牲の上に成り立っているのではないだろうか。フールの豊かで安全な暮らしは、チャリオットによって守られてきたのではないだろうか。 そんなことなど露も知らないフールに、チャリオットは妬まれてーー。 両親の寝室前を横切ったとき、ふとドアの隙間から明かりが漏れていることに気付く。   父と母はまだ起きているらしい。 自分は友人と飲んでくるから、先に寝ていていいと言ったのに。 二人がこそこそと何か話し合っているのが聞こえる。 トウヤは足元の明かりの前で足を止め、そっと耳をそばだてた。 「早いもんだ。トウヤももう、ひとり暮らしするようになるんだなあ」 「そうねえ。ようやく、あのことを打ち明けられるわ」 ? 知らず指先がぴくりと動いて、トウヤは唾を飲み込む。 「今後は食事をひとりでとるようになるから、くすりだって自分で飲まなきゃならないしね」   「ああ。しかしあいつが〝ハーミット〟の一期生に選ばれた日の幸運は、今でも夢に見るな。トウヤの未来も、わたしたちの生活も安泰だ」 両親の話は切れ切れであったが、繋ぎ合わせて推測するとこうだった。   トウヤはフールではない。 かといってチャリオットでもない。 この国の政府が秘密裏に開発を進めていた新薬、「PBM(perfect brain medicine)」を使用して育てられた第一期生、ハーミット。 秘匿性が高く、この国においてまだ0.001%以下、ごくわずかな人間にしか使用されていない。 PBMを使って育てられた人間は、他者より優れた頭脳を有するという。
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