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「よお、久しぶりじゃんトウヤ。元気にしてたか?」
居酒屋の一番奥、小さな個室席で昔と変わらない快活な笑顔で迎えてくれたのは、松谷ダン。トウヤの中学時代の友人だった。
「元気だよ。お前から急に連絡が来たときは何があったのかと思ったけど……良かったな。内定おめでとう」
トウヤが個室に入ると、自動ドアが音も立てず閉まった。
コートを脱いで着座するやいなや、ダンが注文用のタブレットを押し付けてくる。彼はすでに注文を済ませているらしい。どうせお互い、一杯目はビールだろうと、トウヤは深く考えずタブレットに入力した。
ようやく、ひと息つける。
「オレらも……つかオレも、もう社会人かぁ。はえーよなぁ、嫌だなぁ。トウヤは大学院に進学するんだろ。羨ましいよ、モラトリアムってやつじゃん。お前昔っから勉強だけはできたしな」
だけというのは余計だが、確かにそのとおりだ。
屋城トウヤという男は、勉強だけが取り柄で、一度テキストに目を通せば丸暗記できてしまうほどの記憶力の持ち主だった。自覚はあるものの、それは先天的なもので自分自身の魅力ではない……とトウヤは感じていた。
「研究は楽しいし、会社員として働くより俺の性に合ってるから。院に進ませてくれた親には感謝しないとな。でもさすがに22歳にもなって、実家暮らしでおんぶに抱っこ……は嫌だから、これを機にひとり暮らしするつもり」
「おお、ひとり暮らしはいいぜー! 親の監視がなくてさ。はやく自由の身になれよ」
接客アンドロイドがビールを運んできて、旧友との再会を祝して乾杯した。
ダンとは中学3年間同じクラスだった。それなりに気の合う仲間と認識していたのだが、卒業後は疎遠になっていた。それが突然「久しぶりに会わないか」と連絡が来て、お互いの新たな門出を祝うため集まることになったのだ。
大学四年の冬、二月半ばのことだった。
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