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ミツキは常人の何倍も速く走り、泳ぎ、力も強かった。トウヤは男であるにもかかわらず、何度も彼女に助けられてきた。
チャリオットだのフールだのという区別さえ知らなかった頃の自分は、大きくなればいつか、自分もミツキを守れるくらい強くなれるのだと信じていた。
それなのに、その差は縮まるどころか開く一方で、いつしかトウヤは彼女にコンプレックスを抱くようになっていた。
「政府公認とはいえ、くすりを投与されて育つなんて、ずりーよなぁ。ガキの頃から格別に強くってさ、オレらにはない特権。将来有望、キャリアは約束されてるようなもんだもんな」
ダンの言葉に頷くことこそしなかったものの、その想いはずっとトウヤの胸の内にくすぶっている。
チャリオットの育成は、この国の政府が主体となって推し進めている。
いや、今や先進国をはじめとする各国の施策のひとつになっているといってもいい。
身体強化薬PPMによって強靭な身体を手に入れた彼らは、特殊警察、自衛隊、スポーツ選手などそれぞれの希望と適正に合った仕事に就く。
働き口に困らないだけでも特権というにふさわしいが、PPM使用を承諾した家庭には補助金が出る。ほとんどの交通費や医療費もタダになるのだ。
だからチャリオット育成協力を要請された家庭は羨望の的だった。全ての世帯が希望すればくすりを使用できるわけではなく、選ばれた一部の家庭にのみ支給される仕組みも、チャリオット優位に拍車をかけていた。
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