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「な、トウヤ。お前ミツキ先輩のこと好きだっただろ」
つまみの串焼きを歯で食いちぎりながら、向かいの友人は品のない笑みを浮かべる。
「は……? 何言ってんの。ミツキはただの幼なじみだ。そういう目で見てない」
トウヤは険を含んだ瞳で彼を見返した。
「隠さなくていいって。選択授業のときも、廊下ですれ違ったときだって、ずーっと目で追ってんだもん。分かりやすすぎなんだよなぁトウヤくんは。けど自分より弱い男に、あのミツキちゃんがなびくとは思えねぇんだよなあ」
「ダン。お前、人の過去ほじくり返して、いったいなんのつもりだよ」
「これ、見てみろ」
そう言ってダンが机の下から出した物は、黄みがかった液体入りの小さな瓶だった。
栄養ドリンクだろうか。何もラベルが貼っていない。
瓶に触れようとしたトウヤは、
「PPMだよ。政府公認の身体強化薬」
ダンの思わぬ一言に、伸ばした指先を震わせた。
「なんでそんなもの、ダンが持ってるんだよ」
「まあいろいろコネがあってな。PPMは普通、3歳頃から少量ずつ摂取して身体能力を伸ばしてくんだけど、ここにあるのは通常使用されるそれの10倍の濃度だ。今から飲んでも効果が出る。どうだ?」
「どうって何が」
「使ってみたくないか」
「そんなの。どう考えたって怪しすぎるだろ……」
と言いながら、視線はその液体に吸い寄せられる。酒による酔いも手伝って、頭がぼうっとしてくる。
欲しい……。
このくすりがあれば、ミツキと同じになれる。
ミツキを守るための力が手に入る。
強くなれたら、彼女に追いつけず背を向けてしまった過去の自分を、蹴り飛ばしてやることができる。
黄色の液体が、ほの明かりに照らされてきらきらと輝いて見えた。
「ダン、これ」
小瓶から視線を外してダンの顔を見たとき、トウヤは目を見開いた。
個室の扉が、いつの間にか開かれている。
いやそれよりも……。
ダンの真後ろに、すらりと長身の女性が立っている。スーツ姿の彼女は、冷たい目でダンを見下ろしている。
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