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トウヤは警察署で取調べを受けたあと、高濃度PPMの売買には関与していないとして解放された。
時刻は22時。冷たい夜風が目にしみて、煌々と輝く街明かりがぼんやり霞んで見えた。
駅へ向かおうとすると、クラクションが鳴った。
反射的に振り返ると、西野ミツキが車から降りてくるところだった。
警察車両ではない。彼女の自家用車なのだろう。夜でも目立つ赤い車。ミツキはドアにロックをかけ、小走りにやってきた。
「すっかり遅くなっちゃったわね。家まで送って行くわ。まだ実家に住んでるのよね?」
「ずいぶん親切だな。これも仕事のいっかん?」
「これは仕事とは別。ただの西野ミツキとして、久しぶりに幼なじみのトウヤくんと話がしたいだけ。乗るの、乗らないの?」
「乗る」
助手席に乗り込むとフロントドアが閉まり、ほんの少し緊張が走った。
警察官と肩を並べているからか、はたまた、かつて仲良くしていた女性がまるで自然に隣を空けてくれたためか。
「今日は悪かったわね。トウヤは無関係だって分かってたんだけど、あの場に居合わせたからには調べないわけにはいかなくて。
私、ずっとあいつをマークしてたのよ。最近はカモになりそうな知人に手当たり次第、連絡しててね。くすりを高額で売りつけるの。
あなたが手を出しそうになってたから、焦って飛び出しちゃったわ」
「俺も捕まってたかもしれないんだな。取引に応じてたら」
「そうかもね。でも私の知ってるトウヤはそんな人間じゃない。危険を察知できない人間じゃないもの。だからこそ解せない。どうしてすぐに拒絶しなかったの」
ミツキの鋭い視線が、トウヤの右側を突き刺す。
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