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「理由は……言えない。言いたくない。ミツキには特に」
君がチャリオットだから、なんて。
弱くて情けない屋城トウヤに、いつも手を差し伸べてくれた善意が苦しかったなんて、言えるはずがない。
トウヤは彼女の視線から逃げるように顔を背けた。
「もしかして、まだ自信が持てないの?
あなたには素敵なところがたくさんあるって言ったじゃない。
例えば、私が薦めた小説の内容を一言一句違わず言えるところ。
他人に誰かの悪口を吹き込まれても、鵜呑みにせずちゃんとその人を見極めようとするところ。
それから……私を〝ただのミツキ〟にしてくれるところ。
ねえ。それなのに、私のことを羨ましいと思ってるの」
「思ってる」
見なくても、彼女のハンドルを握る手がこわばるのが分かった。
全自動運転機能のついた車だ。ハンドルを握る必要はない。それなのに、さっきから彼女の手はそこから離れない。
もしかして自分より、ミツキのほうがよっぽど緊張してる?
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