キミのこころを知るくすり

9/14

29人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「理由は……言えない。言いたくない。ミツキには特に」 君がチャリオットだから、なんて。 弱くて情けない屋城トウヤに、いつも手を差し伸べてくれた善意が苦しかったなんて、言えるはずがない。 トウヤは彼女の視線から逃げるように顔を背けた。   「もしかして、まだ自信が持てないの? あなたには素敵なところがたくさんあるって言ったじゃない。 例えば、私が薦めた小説の内容を一言一句違わず言えるところ。 他人に誰かの悪口を吹き込まれても、鵜呑みにせずちゃんとを見極めようとするところ。 それから……私を〝ただのミツキ〟にしてくれるところ。 ねえ。それなのに、私のことを羨ましいと思ってるの」   「思ってる」 見なくても、彼女のハンドルを握る手がこわばるのが分かった。 全自動運転機能のついた車だ。ハンドルを握る必要はない。それなのに、さっきから彼女の手はそこから離れない。 もしかして自分より、ミツキのほうがよっぽど緊張してる?
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加