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1 始まりの夜会
「殿下? 後、そこの無礼者の女もですが、もうその辺りでお止めになったほうが宜しいかと」
×××
綺羅びやかな王宮の夜会会場。
窓の外は曇り空。
今にも雨が降りそうな空模様も、煌びやかなシャンデリアや、これでもかというくらいの凄まじい勢いで飾ってあるクリスタルの燭台が良い仕事をし、夢のような美しさを醸し出すのに一役かってくれているーー
まあ、要するに王家の威信を賭けて彩られた会場は気を抜くと目が潰れる位のキラキラしさである。
そんな中、楽団がゆったりとワルツを奏で、ホールの中央で仲睦まじそうなカップル達が流れるようにダンスを披露しているのが見える。
あちらこちらで着飾った若い男女が、気の合うもの同士で談笑しその合間を見目麗しい給仕が通り、トレーに載せたグラスを、優雅な所作で人々に渡す。
ここに居る皆がこの美しい煌びやかな空間で思い思いに寛ぎ、長かった王立学園を卒業して明日からの希望に満ちた生活を夢見て顔を輝かせている。
その中で1人壁際に近いテーブルの上に載せられたプティ・フールをもぐもぐと咀嚼するご令嬢が1人。
父親で王弟でもある辺境伯爵の色とその夫人の類稀な美貌を受け継いでおり、流れる絹のようなベリーピンクの髪に菫のような青紫の瞳は少したれ気味で年齢よりもやや幼く見える。
白い肌、赤珊瑚のようなつややかな唇、桜色の頬。
細い腰と豊かな胸。
彼女の姿は兎にも角にも、周りの人々の庇護欲をかき立てる。
彼女を一目見たこの国の貴族のご子息たちは一瞬で虜になったが、残念ながら一瞬で失恋もした。
何故なら彼女はこの国の王太子であるシルファ王子の婚約者。
従姉妹ではあるが、釣り合いが取れる年頃の女性の中で1番イロイロな面で秀でているから選ばれたのである。
そう、イロイロと・・・
である。
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