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「最近新しい小説は読んでる?」
「今は特に読んでないかも」
陽乃とは小説を嗜むという趣味が一致した。これが彼女と縁を紡ぐ所以になった。
文学部らしい趣味といえばそれまでだが、彼女とは波長が合った。人の心の機微を描いたような作品が好きなところ、青春や恋愛系作品を読んでいるところ、学生時代は図書委員だったところ、実は小説を趣味で執筆しているところなど。容姿がまるで違う私たちの間に、共通項がいくつもあったのだ。
「月波さんの新作が今日出るんだよ!」
「え、そうなの?」
月波 華秋という近年話題になっている小説家。青春の青さを綺麗に、時に残酷に描いた作風。私たちはそれに強く惹かれた者同士だった。
「そうなの!近々買う予定だったし、星那の分も買うよ」
「え、悪いよ」
「いいの。これくらいはさせてよ」
「…ありがとう」
まっすぐ私を見て微笑む陽乃。こんな時の彼女は義理堅く、見た目に反して真面目で誠実。今までも多々そう感じることがあり、趣味が合う以上に私は友人として強く惹かれている。
「今日は買いに行かないの?」
「うん、次の四限目の後すぐバイトだから」
「居酒屋だっけ?」
「そうそう、私もうすぐ二十歳だからやっとお酒飲める。バイト先のみんながお祝いがてらお店で誕生日会開いてくれるの」
「へぇ…」
「星那も来なよ。もう二十歳だしお酒は大丈夫でしょう?」
二十歳。大人への一区切りだ。
そうか、私はこんな生活を約一年もしているのか。
「…いや、大丈夫だけど。私、陽乃のバイト先の人と関係性ないよ」
「関係性ないって意味では、私の彼氏も来るから大丈夫」
「いやそれなんの免罪符にもなってないし。陽乃の彼氏のことも話しでしか聞いたことないし」
「何回か顔は見たことあるじゃん」
「鉢合わせただけだよ。関係性ないのと同じ」
2年生の初め頃から、陽乃は同学年で別学部の男子と付き合い始めた。彼女の言うように、何度か二人で一緒にいるところに居合わせはした。しかし会釈した程度で事実上の関係性は何もない。
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