1夜目 星の屑

4/15
前へ
/18ページ
次へ
「陽乃…あっ」  すると一つ、陽乃の名前を呼ぶ声が入口から聞こえてきた。 「お、噂をすれば」  目線の先、一人の男子学生が目に映った。  夜のように真っ黒な髪は重ためのマッシュヘア、整った目鼻立ちとそこそこの高さの身長。細身の身体、スラリと伸びた足。派手でもなく、野暮ったくもないおしゃれな服装。そのどれもがいい塩梅に折り重なった、清潔感のある男の子。 「葛輝(かずき)、こっちこっち」  陽乃は彼を呼び込むようにちょいちょいと手招きをする。葛輝と呼ばれたその子は遠慮がちに講堂に入ってきた。 「前々から紹介しようとは思ってたんだよ。こちら私の彼氏の葛輝です」 「…こんにちは。一ノ星(いちのせ) 葛輝(かずき)です」 「文月(ふづき) 星那(せな)です。こんにちは」  笑顔で挨拶をする彼に応えるように、努めて柔らかく、失礼のないように微笑んで自己紹介をした。  近くで見るとその端正な顔立ちがよりはっきりわかる。謙虚な立ち居振る舞いだが、笑みを浮かべる容姿からはおどおどした印象は感じられない。声も思ったよりも低く、同い年にもかかわらず少し大人びた雰囲気を感じた。 「はい、これで知らない仲じゃなくなったね」 「なんのこと?」 「今度の私の誕生日に星那も誘おうと思ってるの。そしたら星那が葛輝のことよく知らないっていうから」 「いや、そんな強引な。今挨拶しただけじゃない」 「そうだよ陽乃。無理やりはよくないよ」  なにか問題でも?と言わんばかりの表情をする陽乃に、二人してツッコミを入れる。予想通りだが、陽乃のパワフルさをある程度抑えてくれる良い彼氏なようだ。 「いいのいいの。星那には私が来て欲しいの!」 「参加するのは別にいいけど…」  ちらりと彼の方を見る。私の目線を拾った彼はまた一つ、温かな微笑みを返してくれた。 「陽乃がごめんね。僕的には迷惑とかはないから大丈夫だよ」  気遣いもできる。あぁ、これはモテるなと思った。  しかし、柔らかさを持つも腹の底までは少し見えない。ミステリアスな雰囲気。好きな人はとことん刺さるような、そんな魅力が彼にはあった。 「はい、というわけでまた今度詳細な時間と場所教えるね!」 「…わかった」 「じゃあ私たち次同じ講義だから!星那、絶対だからね!」 「はいはい」  そう言って彼女が立ち上がり、彼は陽乃のカバンをすっと持った。ありがとうと笑みを返し合う彼らの関係は、傍から見てもとてもいい恋人同士だった。 「じゃ!」 「うん、また明日」  明るく別れを交わす陽乃と、軽く私に会釈する彼。そんな姿を見送りながら、恋人とはどういう関係なのだろうと思いを馳せた。  きっと、今の私がしている以上に、愛というものが明確にそこに存在しているんだろう。  彼らの姿を見てそう思った。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加