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「先生は学校生活の経験がないんですね」
「そうなるかな。とはいってもどんなものかくらいは知ってるよ。知識としては十分ある」
「じゃあ修学旅行がどんなものかご存知ですか?」
「修学旅行ね! 知ってる知ってる。あれだろ? クラスメイトみんなで各地の古い教会や遺跡をめぐったりして王家やこの国の歴史を学んだりする旅行に行くんだよね。夜はみんなで異性の話で盛り上がったりして。学園生活最大のビッグイベントだろ?」
「全然違います」
「ええっ!?」
「先生は学校を何をする場所だと思っているんですか」
まさかの不正解にダメ出しを食らって怯む先生。
「うーん……勉強したり友だちを作ったり恋愛したり……」
「あーあー。もういいです。いいですか? 学校は勉強する場所なんです!」
「……君が修学旅行が何かって聞いたんじゃないか……」
「修学旅行というのは学業を修める旅行。つまり! 学校の外に出ることで 見識を広げこれまで学んできた集団行動の大切さ国家臣民として社会の中で生きるということを実践する集大成の場! それが修学旅行なんです!」
私が捲し立てたので先生はかなり萎縮していた。先生は専門分野以外では割りと押しに弱い。ちょっと困ったような顔がその姿と見た目と相まってとても可愛い。嗜虐心をそそられる。私ってけっこうそういう気があるというのは最近気づいた。
今日は完全に私のペース。先生に流れは渡さない。私の学生時代の話など掘り起こさせてたまるものか。
「そうなの?」
「そうなんです。生徒手帳に書いてあります。それなのに、就寝時間も守らず夜遅くまで起きて騒いだり、集団行動も守れず男と逢引したり、それのどこが修学旅行なんですか? あんなもの修学でもなんでもありません。ただの旅行です。マッチングツアーです」
「なるほど。君の言うことも一理あるね」
「一理ではなく真理です」
「はい」
「他にも文化祭、体育大会、球技大会、剣術試合、クラス対抗魔法大会、合唱コンクール……イベントがあるたびに、どうしていちいちいちいちいちいち恋愛を絡ませる必要があるんですか! 不純異性交遊は禁止と! 生徒手帳に書いてあるのが読めないんですか!」
「まあ、落ち着いて。ボクは体験したことがないから知らないが、それらはおそらく『学園症候群』だろうね」
学園、症候群……?
「そう。特定の条件がそろうと発生する学校ならではの症候群。研究はしていたんだけど、命に関わることがほぼないので研究するだけにとどめておいたんだが……そうだ。いい機会だ。学校へ行こう! 学園症候群の治療をやろうじゃないか!」
症候群となれば先生のフィールド。勢いを取り戻してしまった。もう少しいじめたかったのだけど。
学校かあ。まだ卒業して一年しか経っていないのにはるか遠い昔のように思える。
「わかりました。すぐ準備しますね」
と私は先生に指示されたものを用意したり、連絡を入れたりした。
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