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それから勢いに乗った先生は学校中の危険地帯を次々と治療してまわった。
「美術室!」
「ここも危険なんですか?」
「胸像が扇情的すぎだ。可愛い動物かなんかに変えよう」
「美術への冒涜!?」
「茶道室!」
「お茶入れるお部屋になんの危険が……」
「畳張りなのが良くないな。校内で靴を脱ぐのはここくらいのものだ。気の緩みを誘う。一体何をするつもりだ」
「お茶を入れるつもりだと思うんだけど……」
「ここは衛兵を置かざるを得ないな」
「どうして!?」
「理科準備室!」
「待って待って待って。ここは先生が常にいるところだよ?」
「いやぁ……どう思う? リコくん」
「いけませんね。準備室はいけません。社会科準備室もだめです」
「だから、どうして!?」
特にイケメンの若い先生が要る場合は閉鎖も考えた方がいいわね。
学校中を引っ張り回されながらツッコミが追いつかないグレンさん。こうなった先生はもう止められないことを私はよく知っている。まあ、今日は止める気もないけれど。
「図書室!」
「本を読む場所ですけど……ここにもなにか?」
とグレンさんが諦めた口調でいったところへ私が割って入った。
「先生、ここだけは見逃してください!」
私は先生の制服の裾に取り付く。
「だめだ。ここは死角が多すぎる。影に隠れて破廉恥な行為をするのはもちろん許せないが、これでは隅っこで純文学の官能的な部分をこっそりみつけて読む生徒が出てきてしまう」
誰のことを言っているのやら。
「それは別に悪いことではないのでは……」
とグレンさんが擁護するものの先生が止まるわけもなく。
「まず死角をなくすために円形にして壁に沿って本を配置する。本棚が倒れにくくなるし広く見えるしな!」
「あ、いいですねそれ! 中央が読書スペースなんですね!」
グレンさんまで先生に賛成してしまった。
私は先生の腰にしがみついて懇願する。
「い、嫌です! 図書室はもっと暗くて狭くて閉鎖的な場所なんです! そこがいいんです!」
「は、放せ! 君の好みは聞いてない!」
先生は容赦なく図書室を分解。再構築して、それはそれは開放的で光指す空間へと変貌させた。
ああ、私の聖域がぁ……
うなだれる私の肩に今度はグレンさんが手をおいて、首を横に振った。
「校舎裏!」
「登下校道!」
「プール!」
「校庭!」
「旧校舎!」
「使われてない空き教室!」
「道場!」
……
……
「よし、こんなところかな」
「とてもいい学校に生まれ変わりましたね」
「あたしはこんな学校ちょっと嫌だなあ……」
ようやく先生が満足した頃にはすっかりと日が落ちてしまっていた。夜の学校にも危険が多いと言い出した先生を憔悴したグレンさんが必死に止めているのは流石に不憫に思えて私も協力して先生を納得させ、ようやく帰路についた。
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