学園症候群

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とある異世界の診療所にて  私宛に届いた一通の手紙。 「同窓会のお誘いかあ。そっか。もう卒業して1年も経つんだ」 「いくのかい?」  机の上に細い足を乗せて椅子を揺らしているのがこの診療所の主である先生。どう頑張って見ても学生かそれ以下にしか見えないけれど私の上司であり、世界最高の医療技術を持っている。私はその助手。  さらに先生は頭脳と医療技術だけでなく顔、運動、魔力、地位、資産、権力まであらゆるものが国家最高レベルで大抵のものは何でも思い通りになる。  ただ、身長だけは思い通りにはならなかったみたいだけど。 「どうしようかな。久しぶりにみんなに会いた……いこともないか」  私は答えを途中で濁した。ふと学生生活を思い出してみたら楽しい思い出が一つも思い出せなかったから。そんなはずない。なにかあったはず……。 「……学園でなにかあったの?」  足をおろし、先生が心配そうな顔でこっちを見てくる。 「いえ、別に。むしろ何もなかったと言うか……」  この一年があまりに濃すぎて私の前半の人生が薄まってしまったのかもしれない。 「そう言えば君は学園を首席で卒業したんだったよね。勉強ばかりしてて友達を作り忘れたとか?」 「べ、別にそういうわけじゃありません。いますよ友達くらい。確か。何人かは……。あと、今日は私の思考を勝手に読んだりしたら本気で怒りますから」 「そんなことしないよ。するわけない」  どうだか。 「それで? どんな学園生活を送っていたんだい?」  どうせ嘘をついたってバレるので本当のことを言う。 「ご想像のとおりです。勉強ばかりしていました」 「部活とか彼氏とかは?」 「部活は魔術研究会と神聖文字解読同好会を掛け持ちでした」 「彼氏は?」 「……よく覚えてません」 「彼氏は?」 「……いるわけないじゃないですかそんなもの。少女漫画(ファンタジー)じゃあるまいし。あんなものはごく一部の陽の光のもとで生活していた人だけが手に入れるものです。そういう先生こそ、学生時代彼氏とかいたんですか?」  いたわけ無いだろうなとは思いつつ聞いた。 「ボク? ボクは学校に行っったことがないからなあ……」  予想外の答えが帰ってきた。確かに先生が学校に通っている姿はあまり想像ができない。 「それより同窓会、どうするんだい?」 「そうですね。行くのはやめておこうと思います。私なんかが行ったところでどうせ誰も私のことなんて覚えてないでしょうし、いえ、名前も知らないとかそういうことじゃなく、私に興味がないという感じで、挨拶を交わして初めて思い出されて『ああこんなやついたっけ』みたいな顔をされてそれでその後の会話も続くこともなくおしまいだと思いますし。私がひたすら真面目に勉強をしていたときに遊び倒していた人たちが今どうなっているのかには興味がありますけど」 「いい感じにひねくれていて、すごく好感が持てるな」 「……やっぱり今のは忘れてください」  絶対に忘れてくれないでしょうけど。
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