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初尽くし
きららのクラスは女子と男子が半分ずつになっている。
30人が椅子に座ると、年若い男の先生がみんなの前に立った。
父母は子供達の後ろにずらりと並んでいる。
我が子の様子を心配そうに見ながら、先生の話に耳を傾けた。
「みなさん、入園おめでとうございます」
30人が一斉に返事をした。
「ありがとうございます」
みんなお行儀が良く、先生の話を聞き漏らすまいと夢中で見ている。
きららは真ん中辺りの席に座って、身じろぎもせず先生を見ている。
幼稚園で使うカバンや生活手帳、クレヨン、上靴、スモックなどを全員に配る。
全ての品には既に名前が明記されていて、名前の読めない子のために、違う動物のイラストが描かれていた。
自分が何の動物なのかを覚えておけば、間違う事はない。
きららは猫のイラストだった。
自分の棚にそれらを置いて、席に戻ると先生が後ろに並ぶ親に向けて話を始めた。
「先程お配りしたカバンと生活手帳は毎日持ち帰りますので、その日の子供の様子などを書いて、お知らせください。
朝と帰りは園のバスが出ますので、必ずバスに乗るのを確認の上登園するようお願いします。
帰りもバスの停車する場所でお子さんをお迎えください、くれぐれも一人にならないようお気を付けください。」
子供の安全は園と親との協力が無ければ完璧には出来ないと言われ、身が引き締まる。
きららに何かあったら・・・・・そう思うだけで、心臓の動悸が早くなる。
入園式が無事に終わって、帰宅すると両親がお祝いの夕食の準備をしていた。
きららは4人の大人が守っていると思うと安心できた。
自分は小学生の頃から、一人でいた事を思い出す、あの頃の自分が可哀想で抱きしめてやりたくなった。
あの離れで小さな自分はたった一人で暮らしていた。
食事も風呂も寝るのも一人だった・・・・・泣いても誰も来ないとわかってからは、泣く事も忘れていた。
きららがみんなに囲まれて食事を頬張る姿を見ていると、胸が切なく軋んだ。
もし、真宙に遭わなければ今頃自分はどうしていただろう?
今もまだあの離れで一人暮らしていたのだろうか?
そう考えると怖くなった。
「桔平・・・・・」
「ん?何?」
「どうかした?」
「何でもない・・・・・きららは幸せだな、みんなに囲まれて・・・・・」
「桔平には俺がいるだろ、きららも居る」
「そうだな」
真宙に言われて、自分が一人ではないと改めて思う。
愛する真宙と可愛いきららがそばに居て、優しい義父母も居てくれる。
自分はもう一人じゃないと、心からそう思った。
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