ぼくたちの取引

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「あぁ!そうそう、これこれ!」 彼女は嬉しそうにぴょんぴょん飛びはね、ぼくが持っている袋を勢いよく奪いとっていった。 「あ!ちょっと静かにしてよ、もう……」 そう小声でなだめると、彼女はごめんねと小さく肩をすくめ、歯をみせて笑った。 「だってこのラムネ、限定なんだよ!なかなか手に入らないんだからさぁ?」 ねぇ、と圧をかけながらそう言われ、ぼくは彼女の持つビニール袋をもう一度ながめる。 そこにはかわいらしい淡い色のラムネがのんきにころころ転がって、ゆれていた。 そうなのだ、今日は彼女に頼まれ、この限定ラムネを持ってくる約束になっていた。 ぼくにはよく分からないが、期間限定かなんかで特別らしい。 そして、それを姉が入手していたのをたまたま知っていたぼくは、これを今回利用させてもらった。 「それはいいとして、対価は?約束は守ってもらうからね」 ぼくは喜んでいる姿を横目に、そう言った。 肝心なのは、ここからだ。 「あぁ、今度皆で遊園地に行くことだよね。みつみちゃんでしょ、ちゃあんと誘っとくから!」 彼女は任せてよ、とひらひらと手を振ったあと、ぼくの肩をゆらし、そして強く叩いた。 っ痛い……。 しかし、今のぼくはその痛みよりも嬉しさが上回っている。 この今回の取引では、ぼくが限定のラムネを渡すことで、みつみちゃんを遊びに誘ってもらうというものだった。 自分では誘うなんて到底できないので、もうそれはそれはありがたいことだ。 まぁ簡潔にいうと、物と価値の交換だ。 「ていうかもっと可愛くラッピングしてよ!こんなビニール袋じゃなんか勘違いされそうじゃない」 「……それは、ごめん」 確かに、あの見た目は完全に危ないクスリだ。 でも、家にこれしかなかったし、ましてや女の子の好きそうなファンシーなラッピング方法なんて全く知らない。 「まぁ、ありがとね。これでこの取引は成立ということで!」 「分かった。ていうかそれ、はやくカバンにしまって。塾、お菓子の持ち込みダメなんだから」 ぼくは彼女に、そう苦言を呈した。 ここはぼくたちが通っている塾がはいった、古めかしい雑居ビルだ。 授業前にこうやって集まって、今に至る。 リュックの中には数学と英語のワークが入っているのでまだ重たいが、さっきよりは気持ち的にずいぶん軽い。 「あ、もう授業始まる!」 ぼくの腕時計を見た彼女のその一声で、ぼくたちは階段を駆けあがった。
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