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セナはキッチンのドアをノックした。すぐに祐斗が出てきた。
「どうしたの?」
「今夜の夕食は一階で取るつもりだって言っておこうと思ってさ」
「なんで? 人数分用意してるよ?」
「いいって。それは明日にでもご馳走になるよ。今日の食事は二人で過ごせ」
祐斗の顔はみるみる赤くなった。
「気持ちの用意が……」
「バカ言うな」
セナはにやっと笑った。
「後は自分でなんとかしろ。いいな?」
セナの後ろ姿を恨めしそうに見やった。急な展開に祐斗の鼓動が跳ねあがった。
「え、二人で? 皆さんの分をどうするの?」
「明日食べるって。いい? 夕食が二人でも」
言ってからしまった、と思う。あまりにも直截過ぎて。
「もちろんいいわよ! 楽しみましょうね」
シャーリーがはっきりしていることに救われる。年齢を聞いていない、そう思ったが、ヴァンパイア相手に歳を聞くのはいかがなもんか。その疑問には蓋をすることに決めた。自分の中でも避けたい問題だ。
アキラがシャンパンを差し入れてくれて、夕食は楽しいひと時となった。日本のことをあれこれ聞かれて話が途切れることは無い。祐斗の思い出をシャーリーは熱心に聞いた。
「じゃぁ、その雫さんという女性にに育ててもらったようなものなのね? 有難い話だわ」
「うん。僕の小さいときも特に父さんが困った時はいつもしぃちゃんが助けてくれたみたい」
「……別れる時……辛かったわね」
「うん……」
自分でも思い出さないようにしていたと思う。けれどこうやってシャーリーと話していることは苦痛ではなかった。興味本位で聞いているのではないと分かったから。シャーリーは祐斗のことを理解しようとしてくれている。
「こんなことを聞いていいのか分からないけど」
「なぁに? なんでも聞いて」
「シャーリーは僕とこうやっていること……平気なの?」
「平気って? ああ、あなたが人間だから?」
「だって大きな壁があるでしょ? 種族が違うんだから」
「私個人にはたいしたことじゃないけど」
「そうなの?」
「だってお友だちになるのにそんなことは関係ないでしょう?」
「……そうだけど」
『友だち』、そうだよなぁと思う。自分自身のこの感覚はなんなのだろう。ヴァンパイア相手に、触れたい、もっと近づきたい、という気持ちを持ったことがある意味不思議だ。恋したのかもしれない、という思いが自分を突き上げているのに、こうやって言われてしまうとなんとも形容しがたいものに包まれてしまう。
「難しく考えないで。スタートしたばかりなんだし。私は祐斗と時間を過ごすのが楽しいわ。今はそれでいいと思う。もっとお互いを知り合いましょうよ」
シャーリーの言葉に、未来を感じた。予感めいたものだ。
(シャーリーを大切にしたい)
そう心から思った。
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