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ノックがあって、目を覚ました。
「はい」
ベッドの中で伸びをして起き上がった。もう日が落ちて暗くなっている。
「起きてたか? 食事に行けるか?」
途端に元気になる。この街を歩き回ってみたい。
「行く! 用意するから待ってて」
「慌てなくていいぞ。まだ時間はあるから」
行き先は予約してある。ここから歩いて7分ほどのレストランだ。なんといっても祐斗の好きなシーフード料理が美味しい。
祐斗は薄着で出てきた。祐斗にしてみればまだ10月。それほど寒さが気にならない。
ここに来た時に祐斗が驚いたのがエレベーター。エレベーターの無いアパルトマンもあるそうだからあるだけいいのだと教えられたが、それでも怖い。各階の入り口には手動の鉄格子があって、そこに鉄製のかごが降りてくる。その外見は『かご』という言葉がぴったりなのだ。かごの出入り口は蛇腹だけ。だから外が丸見えだ。ボタンはただの黒で光が付かないので、押しても認識されたかどうかが分からない。押した順番にしか止まらないから4階に止まって8階に止まって6階に止まってから11階、なんてことになる。
「エレベーターに乗る時には携帯を忘れるなよ」
「外出だからでしょ?」
「違う。エレベーターが壊れたら俺に電話して来い。管理会社に連絡取ってやる」
「……トイレにも入っておいた方が良さそうだね」
祐斗にはカルチャーショックだ。
「なんでエレベーターも改築しなかったの?」
「歴史があるからなぁ……建物が古いのにエレベーターだけ新品ってのは住人の反感を買うだけなんだよ」
やはり祐斗には理解できない。生活の安全の方が大事なのではないかと。
さて、そのエレベーターに乗り込んで、祐斗は1階のボタンを押した。
「祐斗、0階! 教えたろ、フランスじゃ1階は0階だって」
そうなのだ。2階が1階になるのだからややこしくてかなわない。つまり、住居の11階は10階ということになる。
「もう! 慣れるまで時間がかかりそう!」
住居は最上階なのだから、間違えて押すとその分辿り着くのが遅くなる。なにしろ、このエレベーターの動きはとてつもなくのろいのだから。
(やっぱり作り変えた方がいいんじゃないの?)
階数は日本式にしてもらいたいが、どこに行っても同じなのだから覚えるしかない。慣れておかないと、デパートやアミューズメントに行った時にはさぞかし困るだろう。
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