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通りに出るとセナがブルリと身を震わせた。祐斗の姿を見て油断してコートの中身をちょっと薄着にしてしまった。
「父さん、寒い?」
祐斗が心配する。
「風邪を引くわけじゃないから」
確かに寒いからと言ってヴァンパイアが風邪など引くわけがない。
「またやせ我慢して……どうする? 着替えて来る?」
言われてちょっと躊躇したが、あのエレベーターで上り下りするのも時間がかかる。
「大丈夫、ちょっと寒いだけだ」
そう答えて、コートの襟を掻き合わせた。色とりどりの服装に身を包んだ人たちが街を行き来している。皆、寒さに強そうで、まだコートを着込んでいる人は少ない。
レストランシベールは、こじんまりとした家庭的なレストランだった。
「コートをお預かりします」
そう言われてセナはコートを脱いだ。有難いことにレストランの中は活気があってとても暖かい。そこここのテーブルから弾んだ会話が聞こえてくる。
「いいお店だね」
祐斗の言葉を聞いてセナは少し可笑しくなった。
(いっちょ前のことを言って。大人びてきたよな……年が明けたら18か)
あの日……祐斗を拾ったあの雪の日を思い出すと感慨深いものがある。
案内されたテーブルについて、ワインリストを渡された。
「白ワインでいいか?」
食べるのはシーフードだし、祐斗も白なら飲める。フランスではワインなら16歳から飲むことが出来る。
「うん、それでいい」
ワインはすぐに運ばれて来た。軽く乾杯をし口をつけると、甘いワインが空きっ腹に堪える。セナは当然酒に強いが、それでも腹が減っていれば回りは早い。祐斗はすぐにほんのりと赤くなった。
シンプルなコンソメスープ。サラダはたっぷりの葉野菜にサーモンとムール貝。メインは銀だらのムニエルだ。
「美味しい!」
最初は「サラダでお腹いっぱいになりそう!」と言っていた祐斗だが、食べ盛りだ、あっという間に食事を平らげて行った。
「良かった、この店にして」
セナが微笑む。
「明日の朝はすぐ近くのカフェに行こう」
「家の周りのお店、全部回ってみようよ!」
ワインも手伝って、祐斗はとても陽気だ。
会計を済ませて外に出る。火照った体に夜の空気が心地いい。
「中、薄着で良かったかもしれない」
祐斗は声を上げて笑った。
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