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翌日早朝。セナはキッチンの中を確認しておいた。どうやら前の住人は外食がほとんどだったらしい。鍋が少ないし、調理器具が少ない。皿やコーヒーカップなども少ないからゲストが来た時に間に合わない。
「こりゃ、相当買い物しなくっちゃな」
それでも祐斗と二人なら楽しい時間になりそうだ。
駐車場から車を出す。ワゴン車の方だ。車は前もって使用人のヴァンパイアが乗用車とワゴン車を届けてくれていた。メトロでも行けるが、帰りの荷物を考えて今日は車だ。
「マルシェ、楽しみだな! 慣れたら一人で買い物に来るよ」
「慣れたらな。物が揃うまでは一緒に出よう。今日は鍋とお玉を買うぞ」
「うん!」
キッチンを預かる者としては、お玉が無いなど言語道断だ。
「前の人、どうしてたんだろう」
「外食が中心だったんだろ、パリは食事に困らないから」
「ふぅん。飽きないのかなぁ」
「ミュージアムを周る時には外食しよう! フランスの食事は美味いぞ」
食べる話をしていたら、急にお腹が空いてきた。
マルシェは賑やかだった! パリは東京の山手線の内側とほぼ同じ面積しかないのに、マルシェは80ヶ所もある。
「すごいね! 食材がびっちり並んでる!」
果物も野菜も所狭しと道路に溢れるほどに積まれている。カラフルだ。見たこともない野菜も多い。日本にある野菜も外形がかなり違っていたりする。
「ね! あれ、きゅうり? 30センチもあるよ!」
「フランスのはデカいんだ。ナスも日本の3倍くらいはある。皮が固いから炒めるより煮込み料理に使うんだよ。野菜の色も使い方も日本とずい分違う。サツマイモなんか中は赤くて、マッシュポテトにして食べるんだ」
セナは赤と黄色のパプリカ、キャベツ、セロリなどを1つずつ手に取った。周りには箱買いしている人もいる。
「ばらでも買えるの?」
「ああ、量り売りだからね」
会計を済ませる。そんな調子で買い物を続けていく。オレンジとアプリコットや平桃も2つずつ買った。
「肉屋に行こう」
通りには肉屋、魚屋、チーズ店も並んでいる。セナは食材を買うと持ってきた保冷箱に入れた。
「鍋とお玉を買おうか」
マルシェの中にある調理器具専門店に足を向ける。
「結構な値段だな……」
セナはぶつぶつと文句を言った。
「お玉は買っていく。鍋は明日蚤の市に行ってみよう」
「蚤の市?」
「日本では……フリーマーケットとかバザーみたいなもんだ。家庭の不用品を持ち寄って売り買いしてるんだよ。一日がかりになりそうだな」
「中古品で揃えるってこと?」
祐斗のカルチャーショックは当分続きそうだ。
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