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昼も近い。二人ともかなりの空腹を覚えていた。
「どこかでなにか食べようよ」
「いいところがあるんだ」
セナに連れられて祐斗はマルシェの中を歩いた。人が多い。
「ね、どこまで行くの?」
「もうすぐだよ」
その時通りの端の方にスタンドのようなものが見えた。
「あそこ?」
「そ、あそこ」
「お祭りやってるの?」
「マルシェではいくつも屋台が出てるんだよ。行ってみよう」
近寄って行くと、確か屋台のスタンドがずらりと並んでいる。黒板のメニューまで出している店もあった。湯気が立ち込め、いい香りが辺りに漂う。腹の虫がぐぅと鳴る。
「あれ食べたい!」
祐斗が指差したのはイタリア料理の屋台だ。そこでピザを買い、バーガー屋で大きなビーフバーガーを買った。きょろきょろして、ちょうど人が立ったテーブル席を見つけた。早速バーガーにかぶりつく。
「これ、パンがピンクだ!」
何もかもが珍しい。バンズはビーツが練り込まれているらしく、しっかりとピンク色に染まっている。
「美味いか?」
「うん!」
セナは立ち上がると、別の屋台で生牡蠣と白ワインを買って来た。
「お前も飲むか? あったまるぞ」
「ワインはいいよ、生牡蠣食べたい!」
新鮮な生牡蠣が喉を通っていく。ワインのお陰か、セナの体が温まって来た。
「ここ、すごいね! お祭りの縁日みたい!」
「そうだな。あっちにタコスもあったよ」
「買ってくる!」
祐斗は走って行った。
屋台には日本料理を出しているところもある。寿司は残念ながらアボカドとチーズと飯を海苔ではなく、葉野菜で巻いているものが主流だ。だが中には本格的な寿司を出している店もある。タコスを買った帰り、懐かしい言葉をかけられた。
「いらっしゃい!」
(日本語だ!)
思わずその屋台に立ち寄った。
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