パリでの生活

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  「ジャポネーズ?」 「はい、日本人です!」  日に焼けた20代くらいの若い男がにこっと笑いかけてくれた。それだけで涙が溢れそうになって来る。 「観光客?」 「いえ、こっちに住んでます」 「そうか。大変だろ、外国住まいって」 「父が一緒だから」 「なら安心だ。俺は11月まで叔父のところで手伝いをしてるんだよ」  屋台の端で小柄な男性が寿司を握っている。いろいろ話したいが、混んでいるからじっくりお喋りなど出来ない。 「オマケしてやるから買ってけよ」 「ありがとう!」  市場だからネタは新鮮だ。マグロとアジとイカを買う。セナの分もだ。 「週末はここで屋台出してる。良かったらまた寄って」 「はい! また来ます」  ちょっとした立ち話をしただけ。ただそれだけが胸を熱くした。 「寿司?」  セナが驚く。 「アジだ!」  セナはアジが大好きだ。 「あっちで日本の人が屋台出してたんだ」 「日本人が?」 「うん! 週末はやってるって」  父には涙を見せないように笑顔で答えた。泣いたりしたら優しい父はきっと自分を責めるだろう。 「良かったな、祐斗」  まるで心の中を覗いたように父が肩に手を置いてくれた。  次の日は蚤の市に出かけた。マルシェと同じように、道路一杯に出店がずらっと広がっている。扱われている品は種々様々だった。衣類、アクセサリー、食器などを専門に出しているプロの店があったり、素人が家庭から家の中の不用品を出品している店があったり。家の中からだから(こんな物、何に使うんだろう?)というような物まである。 「これ、なに?」  セナが店の主に聞きながら卵型の木の細工品を手にする。 「パズルだよ。組んだ木をばらばらにしていくんだけど、俺は出来なかったんだ」  主が残念そうに言う。 「いくら?」 「1ユーロ(約150円)だね」  セナは「ふぅん」と言いながら卵を置いた。台の上を眺めていくと、端に鍋がある。手に取ってみた。祐斗が覗き込む。 「ちょうどいい大きさだね!」 「待て待て」  鍋の底を空にかざしてみる。 「見ろよ」  そこには小さな光があった。 「穴が開いてる。粗悪品だ」  蚤の市にはそんな質の悪い品を売りに来る者もいる。二人はそこを離れた。    
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