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鍋を求めて歩き回る。一応プロの店も見たが、高かった。
「どうしても無かったらこいつを買おう」
お金に困ってるわけじゃないのだから、なんとなく可笑しくなる。誰でも思うことだ、せっかくこんなところに来たのだから少しでも安く買いたいと。
「あのラグ、きれいだね!」
老夫婦が出している店だ。祐斗がそばに行こうとするのをセナが止めた。
「やめとけ」
「どうして?」
「そばに猫がいるだろ?」
確かに老夫婦のそばに猫がいる。
「ラグの上を猫が行ったり来たりしてるはずだ。小便とかノミとか、不潔な可能性があるんだよ」
そんなことまで気をつけて見なくてはならないのだ。
「父さん、何でも知ってるんだね」
「まぁな」
セナがにやっと笑った。
「年の功ってヤツだ」
「じゃ、あそこに出てる衣類も?」
「そうだよ。気をつけた方がいい。気に入ったものがあったら動物を飼っているかどうか聞いてみるといいんだ。良識のある出品者だったら洗って出したり、その辺気をつけるんだけどな」
鍋は見つかった。聞けば引っ越しをするから不用品を処分しに来たのだと言う。古い物ではなく、大きさもちょうどいい。
「これとそっちの2つをもらうよ」
「ありがとう! 捌けないと困るんで安くしてますよ」
プロの店の半額近い。これはいい買い物だ。
目的を達成したが、二人はのんびりと市の中を歩き回った。年代物の椅子、テーブルなどもあるし、アンティークの装飾品もある。何度か立ち止まって、手に品を取った。
「安いですよ!」
「物はいいです。ビンテージですよ」
そんな声を聞いた。その中で一つセナの目を引いた物がある。
「あのチェスト、いいな!」
そんなに幅はなく、高さは胸くらい。木彫りの装飾が施してある。辿り着く前に他の夫婦がチェストに触った。
「残念! だめか」
セナがため息をつくと、若夫婦は早々にそこを離れた。セナが急ぎ足で近づく。
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