パリでの生活

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パリでの生活

   今は10月の半ば過ぎ。日本より少し早く冬を迎えるパリの風には、もう冷たい空気が満ちている。セナはがっちりとコートを着込んで寒さ対策は万全だ。  アパルトマンは坂の途中にあり、110年の歴史を持つだけあって外観はひどく古めかしい。  11階の三分の一を占めたその部屋はきれいだった。家具はこれまでの住人が使って来たもので、アンティークな物が中心だ。壁はどの部屋も一面だけがくすみのある深い風合いのブルーで、他は白。ブルーがいいアクセントになっていて、古い建物なのにお洒落な部屋に見える。 「明るい部屋だね!」  祐斗は部屋に差し込む光をすごく喜んだ。屋敷も窓は大きく光を遮るものは無かったが、どこかよそよそしさと冷たさを感じていた。パリの住宅事情では明るい部屋を探すのはとても大変だが、ここは通りに面した大きな窓からは陽の光がたくさん入る。閉塞感に包まれていた生活が、一転して開放的な日々となったのだ。 「テーブルがデカいな。これならゲストが多くてもゆったり食事できるよ」  優に8人は座れるだろう。角は丸く削られていて、とても温かみのあるどっしりとした木のテーブルだ。  室内を確認しながら二人であれこれと喋る。こんなひと時は久しぶりで、セナも祐斗も心から寛いでいた。誰もいない、気にしなくていい。 「ね、ゲストルームが5部屋って、タツキたちが来ても困らないね!」 「そうだな、もっと窮屈な造りかと思ってた」  タツキ、アキラ、サイファが遊びに来てくれることになっている。ここまで送ってもらった時に、祐斗はリュカも誘っていた。 「私のような者が」  慌てたリュカの言葉をセナは遮った。 「水臭いことを言うな! 屋敷ではいつも祐斗のことを気遣ってくれて有難いと思ってる。お前ももう家族の一員だと俺たちは思ってるんだ」 「セナ……」 「みんなと一緒に来てよ。タツキたちにももう伝えてあるんだ、リュカも一緒にって」  リュカは涙を落した。今までリデロー家に仕えてきて、こんな言葉をかけてもらったことがない。 「来ます。ありがとう、祐斗、セナ」  シバを誘えないのは仕方がないことだ。立場というものがある。寂しくはあるが、祐斗もそのことを理解した。  
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