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選定の水晶
魔王の趣味の悪さに微妙な気持ちになる俺。
自信満々に俺を横抱きにしたままの魔王。
そんな魔王を見てため息を吐くリカルド。
もうなに、この状況······?
「ですが、魔王様。いくら運命とはいえ、あなたのジョブは"魔王"です。好きという気持ちだけで伴侶を迎えることはできません」
あーうん。
多分、身分とかを言いたいんだよな。
あと俺は男だから子供とか無理だし。
リカルドは続ける。
「今は気分が高揚しているから平気かもしれませんが、近いうちに傷つきますよ。私は魔王様のためを思い、あえて厳しくします」
よしよし······
俺は期待を込めた目でリカルドを見る。
さぁ、このまま俺を追い出すように言ってくれ······!
「ですから······まずはこの人族のジョブを確認してください」
······期待していた言葉とちょっと違う。
そのまま追い出せばいいのに、どうやらこの男は律儀な性格の持ち主らしい。
公私混同を嫌うタイプの奴だ。
「まぁ、魔王様に釣り合うジョブ持ちなどめったにおりませんけど」
その言葉に魔王は意外だが不安な顔をせず、逆に嬉しそう。
「じゃあ、マヒルが僕に釣り合うジョブだったらお嫁さんとしてここに置いてもいい?」
あっ······
ポジティブに考えたのか。
「ええ、構いませんよ。その時は私、リカルドがこの人族に一生の忠誠を誓うとお約束しましょう」
「おお~」
「······」
そんな約束ができるってことは、冗談ではなく本当に限られたジョブじゃないと認めないんだろう。
俺のジョブは"無職"。
これはさすがに無理だと調べる前からわかっている。
ああ、良かった。
俺は初めて自分のジョブに感謝した。
······いや、このジョブのせいで色々あってこいつに誘拐されたから結局マイナスでしかないか。
まぁとりあえず、俺は少しだけ恐怖が和らいだ。
これで嫁にされるなんてバカなことは起きないと確定したんだから。
「では、【選定の水晶】で調べましょう。幸か不幸か、明日から使う予定だったので今すぐ使えますよ」
「【選定の水晶】?」
「あれ、知らない? 触れた者のジョブを可視化する水晶玉だよ」
「あー······」
あの水晶玉、そんな大層な名称があったのかよ。
リカルドを先頭に魔王は歩く。
そして俺は相変わらず横抱きにされたまま。
「あーでも、人族の水晶玉は【選定の水晶】の紛い物だから知らなくて当然かな」
「は······?」
なんか今、聞き捨てできないこと言ったよな?
「紛い物? どういうこと?」
「昔、作り方を盗まれたんだよね。たしか······リカルド、いつだったっけ?」
「今から290年ほど前の出来事です。私にとったら恥ずべき不祥事でしかありません」
「そうそう! まぁでも、仕方ないよ。僕もリカルドも若輩者でまだまだ未熟だったから」
「え······?」
まるで290年前から生きているような言い方に俺は戸惑いを覚えた。
まさか、魔族って長寿なのか?
さすがは異世界というか······
そんなことを考えている間も2人は会話を続ける。
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