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「100年くらい前になんとか再現して、それから人族はジョブを確認するようになったんだよ。ねぇ、マヒル。人族の【選定の水晶】ってどんな感じ?」
「え? たしか、手に触れたら水晶にジョブの名前が出てきて······」
「それだけ?」
「······それだけだな。ああでも、副会長のは光ってた」
「フクカイチョー?」
「俺と一緒にいた人」
「へぇ······」
"勇者"って文字が現れた瞬間に純白に強く輝き、そのあと赤や青など色んな色に淡く光っていたのを俺は思い出した。
あれは綺麗だったと俺はぼんやりと思う。
ちなみに余談だが、俺の場合は光らなかった。
電池切れかとバカなことが頭に過ってしまうほどまったく。
"無職"と出たあとからずっと一切光らず、水晶玉は透明のまま。
そこら辺についても、あのクソジジイたちがごちゃごちゃ言っていたっけ······
「実はね、【選定の水晶】の始まりはジョブを確認するための物じゃなかったんだよね。ほかの目的で作ったら、副産物としてジョブが可視化されたんだ」
「ふーん。じゃあ、なにが目的の作ったの?」
「旦那さん・お嫁さんを探すのが目的だったんだ。【選定の水晶】の始まりは······簡単に言えば、相性診断かな」
「······」
これ、俺はどう反応すればいいんだ?
ジョブを確認するのが副産物で、目的は相性診断って······
反応に困る俺にリカルドは言った。
「くだらないと思わないでくださいよ。こちらだって真剣なんですから。我々魔族は今、少子高齢化が深刻なんです」
「少子、高齢化······」
「そうそう。城内で働いている部下たちなんて、僕が結婚してないからって遠慮する者が多いんだよね。気にせず好きにどんどん結婚してくれていいのに。結婚式のスピーチなら喜んで引き受けるよ」
「そう思うのなら、仕事をサボって人族を拾わないでください。魔王様がいなくなったら国民たちが困るのですよ」
「······」
少子高齢化は世界が変わっても共通の問題なんだな。
いや、こいつが結婚したら解決しそうだし日本よりかは深刻じゃなくね?
でもなぁ、ここで俺がそれを言ったらこいつのことだ。
『じゃあ、今すぐ僕とマヒルが結婚したらもう大丈夫だね』
とか言いそう。
墓穴を掘るのはごめんだから余計なことは言わないでおこう。
「今、人族ってジョブ至上主義なんだよね?」
「あ、ああ······」
多分だけど、ジジイや城・町の連中を見る限り······
あと、そのせいで俺はあんたに誘拐されたんだとは言わない。
すると魔王はため息を吐いた。
「別にジョブがすべてって訳じゃないのに。たしかにそのジョブに合った職業が1番いいけど、それ以外にも才能がある人だってたくさんいる」
「仕方ありませんよ。人族はたかが紛い物の水晶で人生を決め、ほかの才能をドブに投げ捨て、あまつさえ差別······まったく、どちらが野蛮なのかが疑問ですね」
「ねー。魔族はジョブによったら旦那さん・お嫁さんの条件が狭まっちゃうけど、人族はほとんど関係ないのに」
紛い物の水晶玉、か······
実はこの時、俺はほんの少しだけ期待していた。
もしかしたら、判定された自分のジョブは間違いだったんじゃないかって。
紛い物だし、作られたのは100年前。
それなら壊れていてもおかしくないし、もしかしたら俺のジョブはなにか誤りだったかもしれない。
そう思うと、魔王に誘拐されたのは結果オーライだ。
俺は初めて誘拐してくれた魔王に感謝した。
どうかこのあと、俺のは無難なジョブだと判明しますように······
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