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~数日前~
「ジョブが、"無職"······!?」
「嘘でしょ······!」
【選定の水晶】に映るったのは"無職"の2文字。
そして相変わらず光らない水晶玉を見た時の2人の反応がこれ。
リカルドは目を大きく見開き、魔王は口元を押さえ小刻みに震えている。
水晶に触れるために自分で立っていた俺は、そんな2人を後ろから眺めていた。
今の俺の中には安堵と落胆が混ざっていて、かなり微妙な気持ちだった。
ジョブが間違いであってほしかった。
俺は残酷な現実を目の当たりにし、壁にもたれてこれからのことを考える。
さて、どうやって生きようか。
元の世界に帰れないとなると、早急に安定した収入と衣食住が必要になる。
そのためには金がいる。
あーでも、もしかしたらあのクソジジイが知らないだけで、魔王なら帰る方法を知ってるかも。
それならいいなぁ。
こんなジョブ至上主義の異世界で1人で生きるなんて難しいし。
······が、
「マヒル······!」
「あー······まぁ、そういうことだ。だから俺と結婚は無理──」
「やっぱり、マヒルは僕の運命だ!」
「ちょっ!?」
魔王は泣いて喜び、俺を強く抱き締めた。
どんなにもがいても魔王は俺を離そうとしない。
そんな長い長い抱擁が終わり、俺が解放された頃には······
「マヒル様」
「は?」
幻聴が聞こえた上に幻覚が見えた。
おい、リカルド。
今、なんて言った?
そして、なぜ俺の前で跪いてる?
「り、リカルド、さん······?」
思わずさん付けになってしまう俺。
それくらい動揺しているとわかってほしい。
「"リカルド"で構いませんよ、マヒル様。お約束通り、私はあなた様に一生の忠誠を誓います」
「え······? いや、ここは『魔王様に相応しくないから出ていきなさい』と俺に言う場面で······」
「あなた様以外に魔王様に相応しい者はおりません。マヒル様、今までの数々の無礼を今ここで謝罪します」
「······」
180度変わってしまったリカルド。
え?
なにがあったの?
魔王はさっきからバックハグをしていて、リカルドの行動に満足そうに頷いている。
「リカルドが認めてくれて良かった。これでなんの障害もなく結婚できるね」
「魔王様、マヒル様。お2人が無事に婚姻できるよう、私が全力を尽くします」
いや、反対しろよ!
なんでいきなり賛成するの!?
ジョブが"無職"の奴なんて婚姻相手として1番ダメだろ!
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