魔王の好みと選んだ理由

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魔王の好みと選んだ理由

 アンティーク調の家具が並ぶ広い部屋。  ここは魔王の私室。  そして俺が寝泊まりしている部屋でもある。  別に寝室が扉で繋がっており、誘拐されてからずっと一緒に寝ている。  しかも抱き枕のように朝まで抱き締められるというオプション付き。  いや、寝る時だけじゃない。  俺はぬいぐるみかって聞きたくなるほどずっと抱き締められ、膝の上だ。  1日の自分で歩いた総合時間が10分もあるのかすら怪しい。  「マヒル、大丈夫?」  おやつの時間、相変わらず膝の上に乗せられお菓子を口元に近づけられる。  「······」  「マヒル? クッキーは嫌い?」  「······」  「ケーキ食べる? 最近、食べる量減ってるけど大丈夫?」  「······」  「······マヒル、本当にどうしたの? 僕にできることってある? なんでもするよ」  「っ······!」  1日のほとんどを拘束されているせいでイライラしていた俺。  その腹いせでずっと魔王の言葉を無視していた。  だが、最後の言葉は無視できなかった。  「············ああ、そうだな。1つ、あるな······」  「! なに!? 僕ができることならなんでもするよ!!」  なら······  「······か······せろ······」  「え?」  「······いい加減、俺を歩かせろっ!!」  「へ?」  俺は初めて魔王に怒鳴ってやった。  「なんで俺がお前のことをずっと無視してたかわかってるのか?」  「······マリッジブルー?」  「違うっ!」  もう遠慮なんてしない。  殺されたらという恐怖で大人しくしていたが、結局このままだとストレスで死ぬか病む。  それくらいだったら言ってやった方がいい。  「お前が俺を1日のほとんどを拘束してくるからストレスが溜まるんだよ! お前は俺をうつ病にでもする気か!?」  「で、でも······」  「そもそも、俺は女の子が好きなんだよ! 男のことを恋愛対象として見てないのに、いきなりお前と結婚なんてできるか!」  「えっと······」  「突然なんの前触れもなく異世界に召喚されて、ジョブが"無職"だからとそのままポイ捨てされて、働こうにもジョブのせいでどこも雇ってくれないし、挙げ句の果てにはお前に誘拐されて、説明もなく嫁とか言われて祝いされて······いや、なんで泣いてるんだよ」  なぜか泣き出した魔王に俺は怒鳴るのをやめた。
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