魔王の好みと選んだ理由

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 とりあえず魔王は子供のように泣きじゃくり、俺は緩んだ腕から逃げる。  ここから逃げるなら今のうちだ。  でも······  「······ああ、もうっ! クソッタレ!!」  この部屋から逃げようという気にはなれなかった。  いくら魔王が俺よりかなり年上でも、泣かした奴をほっとくほど薄情な人間にはなれなかった。  「おい、どうした? 怒鳴られてびっくりしたのか?」  「······ごめん、マヒル······! 謝るから捨てないで······! ここから出て行かないで······!」  「いや、なんでそうなる······」  泣きたいのはこっちなんだけど。  あと、捨てられるのはお前じゃなくて俺の方だから。  魔王はグスグスと泣きながら床に膝をつき、人の腹に腕を回す。  それは鬱陶しいので俺はすぐに外そうとした。  なのにこいつ、腕はかなり細いくせに力が強くて外せない。  しかも泣き続けるので、俺は泣き止ませるしかない。  「······ほ、ほら、よしよし······」  試しに頭を撫でてみた。  完全に子供扱いだが、ほかにどうすればいいかわからないんだから仕方ない。  すると不思議なことに、魔王は少しずつ泣き止んでくれた。  あれ?  「······えっと、落ち着いたか?」  「うん······」  「······」  魔王のコクンと頷く仕草が不覚にも可愛いと思ってしまった。  ······まぁ、いい。  とにかく、落ち着いたなら今のうちにずっと疑問だったことを聞いておこう。  「あのさ、なんで俺な訳? あんたくらいのイケメンなら、ほかの奴でもいいだろ」  可愛い女の子でも、男でも好きなのを選べばいいと思う。  なんでわざわざ俺を選ぶ?  悪くはない良くもない顔だし、誰が見ても華がない。  そんな俺の言葉にムッとした表情で顔を上げる魔王。  「······僕にだって、好みがあるから」  「好み? どんな?」  「素朴で平凡な子。雰囲気が華やかな子とかより、傍にいてほっとできる感じの······」  「あー······」  だからリカルドが俺の顔を見て納得したのか。  俺の顔はお袋曰く、"平凡受けになれる系の顔"らしいから。  かなり失礼だが、自分がイケメンではないことくらいは自覚している。  だが決して、受けになる系の顔ではない。  「これでも僕はマヒルより何倍も長く生きてきたから、好みの子は何人か見つけたんだ。でも······」  「『でも』?」  「······僕と密着したら気絶。そして離れず5分ほどいると、相手は恐怖で心肺停止になる」  「怖っ!」
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