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友達からと言いつつ、今でも俺は魔王の婚約者。
ほとんどの民から慕われているそうだが、1部過激派の魔族がいるらしい。
俺を1人にしているとその連中に誘拐されて殺されるかもしれないそうだ。
『じゃあ、婚約破棄すればいいじゃん』
『それだけは嫌だ! ぜぇったいに嫌ッ!!』
『お前は子供か!?』
だから俺はそこで本を読んだり(異世界召喚の特典か、ぐにゃぐにゃな文字なのに普通に読める)して大人しく過ごすしかない。
ちょっと想像していたのと違うが、1日中抱っこよりマシだと思えば納得できた。
まぁその代わりと言ってはなんだが、城のキッチンの使用許可をもぎ取った。
材料も好きに使っていいし、ない物は他国から取り寄せくれるそうだ。
そしてさすがは城のキッチンというべきか、広いし綺麗だし食材がたくさんあった。
少々強面な料理人の人たちも嫌な顔せずスペースを開けてくれるし、見た目とは反して良い人たちだった。
『作ったら僕にもちょうだい』
『いいけど、なにか嫌いなもんはあるか?』
俺の質問に魔王は目を泳がした。
そして目を逸らしながら答えてくれた。
『······苦い物、かな』
『ふーん』
多分こいつ、野菜が嫌いなんだろうなと勘づいた。
子供のようなわかりやすい反応に笑いそうになるのを堪え、俺は了解と言って久しぶりの料理に取りかかった。
どんな反応をするのか気になり、ハンバーグと付け合わせのにんじんのグラッセを用意。
決して、嫌がらせではない。
ストレスの溜まってしんどかったあの頃の仕返しではない。
にんじんのグラッセは苦くないからセーフのはず。
俺はそう心の中で言い訳を並べ、魔王に手料理を食べてもらう。
『マヒルのご飯って美味しいね』
ラノベでもそうだけど、異世界だと地球の料理は珍しい物として扱われる。
親父とお袋の教えがようやく活かされた瞬間だった。
それとあとから知ったが魔王はその高貴そうな見た目と反し、かなりの子供舌。
のちにから揚げやハンバーグ、トンカツなども作るが、笑って美味しいと言って食べる姿は可愛かった。
たとえ、カトラリーを使って上品に食べていても。
そして案の定野菜(特に根野菜)が嫌いらしいが、俺が作ったからと言っておかわりまでする。
おやつを作れば嬉しそうに食べるし、初めて見るものは興味津々にどんなものかを尋ねる。
その姿を見て嫌な気持ちになるだろうか?
嫌いになれるだろうか?
······無理だ。
少しずつだが、日に日に俺の中で魔王への好感度は上がっていく。
『マヒル、大好きだよ』
『はいはい』
俺は思った。
意外だが、魔王は可愛いんだと。
そして気づいた。
なんだかんだ、自分がそんな魔王に絆されていることを。
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