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【皆に好かれる素敵な魔王様】
魔王城にきて早1ヶ月。
俺は相変わらず料理をして魔王を餌付けし、なんだかんだで可愛がっているそんな日のこと。
「なぁ、1つ聞いてもいいか?」
手作りフルーツケーキをおやつに食べている時、俺は魔王とリカルドに尋ねた。
ほかの奴は執務室にいないから今のうちにと思った。
ちなみに、俺は定位置として魔王の膝にいる。
慣れって怖い。
「なんですか? マヒル様」
「今、魔王ってどんな仕事してるんだ?」
俺は最初、どこぞのラノベのように魔王が他国を支配するために戦争をしているのかと思っていた。
しかしこの1ヶ月間、1度たりとも"戦争"や"支配"など物騒な単語は聞いていない。
ここにいる時に聞こえるのは少子高齢化対策、減税について、他国の情勢や同盟国との今後の外交についてなどなど。
実に平和的だ。
一体何度、"こいつ、本当に魔王だよな······?"と思ったんだろうか。
「もちろん、この国の発展と国民の生活と未来のための仕事だよ」
「魔王様は歴代の中でも1番お優しく、慈悲深い王として君臨しています」
「だよなぁ」
なんか空回りするけど、こいつってそこまで悪い奴ではない。
普通に良い奴だし、仕事は真面目だし、部下には慕われてるし。
「じゃあ、他国を手に入れるために、戦争とかを仕掛けたことないんだよな?」
「しないよ。吹っ掛けられて回避ができなかったならともかく、こっちから仕掛けたりはしない」
魔王の言葉にリカルドも頷く。
「魔族は温厚な者が多いんです。それと長生きですから、戦争がどれだけくだらないかを理解しております。子供にもその手の教育は義務化しています」
「あと、争いをするより就活・婚活に精を出す若者が多いんだよね。最近だと、他種族と結婚する異種婚も珍しくないし」
だから戦争賛成派は本当に極わずかだそうだ。
うん、平和だな。
ここが剣と魔法の異世界で、こいつが魔王とは思えないほど。
殺伐としていないのは本当にいいことだと思う。
ただ、だからこそ俺は疑問を抱いた。
「あのさ、俺がこことは別の世界から召喚されたのは話しただろ」
「うん。たしか、チキューのニホンって所だったよね?」
「そ。で、召喚されて開口1番にクソジジイ······王様に『魔王からこの国を守れ』って的なことを言われたんだよ」
「「······」」
だからてっきり、最初はこいつがヤバい奴なんじゃないかと思っていた。
しかし蓋を開けてみれば良い奴。
むしろ、人を誘拐してポイ捨てするあのジジイより何百倍もまともだった。
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