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「どう考えても、勇者が必要なほどあんたが極悪非道には見えないんだよなぁ。ちょっと空回りするだけのいい奴だし」
「マヒル······! ああもう大好き!!」
「急にどうした?」
なぜか魔王は嬉そうに自分の頬で俺の頬をスリスリ。
よく見るとリカルドもこちらを見て微笑みながら教えてくれた。
「嘆かわしいことに、人族の半分以上が魔王様を悪の存在だと思っているのです。疫病、不作、災害······すべてを『魔王がこの国を手に入れるためにした』と国の重鎮たちが国民に伝え、こちらに責任転嫁をしてきます」
「うわぁ······」
「同盟国も恐怖で同盟を結んでるだけだから、ずっと嫌われてるんだよね。これでも僕、【皆から好かれる素敵な魔王様】を座右の銘として日々働いているのに」
「あードンマイ······」
同情した俺は魔王の頭をポンポンして撫でる。
それだけでも嬉しそうだから安上がりだと思う反面、色々と複雑な気分になる。
「てか、それなら副会長は大丈夫なのか······?」
「そのフクカイチョーって、たしかマヒルと一緒にいた人間だよね。てことは······同じ召喚者?」
「ああ。本名は桐谷透って名前の先輩。副会長は先輩の役職名」
色々とバタバタしていて忘れていたが、思い出したら不安になってきた。
副会長のことはよく知らないが、悪い人ではないことはわかる。
学校でも悪い噂なんて聞かなかったし、ら召喚された早々に俺のことを気にかけてくれたし。
「副会長、俺とは違って城に残っていたんだよ。ジョブが"勇者"だったから」
「「!!」」
この言葉に魔王とリカルドが反応した。
特にリカルドなんて、いきおいよく立ち上がったから椅子が床で引っくり返っている。
リカルド······?
「マヒル様、その方は本当にジョブが"勇者"だったのですか?」
「え? あ、ああ、うん。水晶玉も純白に輝いたあと、淡い七色に光ってたし」
「そうですか······!」
リカルド?
珍しく興奮した様子のリカルドは魔王に尋ねた。
「魔王様、今日から溜まっている有給を消費しても構いませんか?」
今日からって······
普通なら却下されてもおかしくない頼みごとだが、魔王はあっさりOK。
「いいよ。じゃあ、ひとまず1週間は休みにしておくから、延長したかったらしていいよ。最大で2週間」
「ありがとうございます。では、失礼します」
お礼を言って頭を下げて、リカルドは早足で執務室を出ていった。
俺は閉じられた扉を見つめ、魔王は······
「リカルドも僕と同じく、ジョブのせいで伴侶について悩んでいたから本当に良かったよ」
「え······?」
そんなことをしみじみと言っている。
この流れで伴侶ってことは······
冷や汗がたらーと流れた。
「ち、ちなみに、リカルドのジョブは······?」
伴侶について悩むほどのジョブとは、一体······?
「"調教師"だよ」
「······」
副会長、マジですみません!!
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