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抱き締められ、絆されて
それからリカルドは丸々2週間休んで仕事に戻ってきた。
その顔はとてもツヤツヤしていて、どこか満足そう。
そして幸せそうに溜まった仕事をバリバリこなしている。
「り、リカルド、久しぶり······」
「はい。お久しぶりです、マヒル様」
「えっと、なんか幸せそう、だな······」
「ええ。長く生きてきましたが、今が幸せの絶頂期だと言っても過言ではありません」
「······」
あんた、副会長になにしたの?
ジョブもそうだけど、ひどいことしてないよな?
······そう聞けたらどれだけいいか。
怖すぎて尋ねる勇気が出ない。
『リカルドは乱暴なことは基本しないから大丈夫だよ。無意味な殺しとかはしない、魔族らしい温厚な性格だから』
魔王の安心できそうなこの言葉。
でも言い換えれば、乱暴なことや無意味な殺し以外はするってことじゃね······
「マヒル様、ご安心を。私は害虫でもない限り、無害な者に殺しや拷問はしない主義ですよ」
「そ、そうか······」
なんか、めちゃくちゃ不穏な単語が聞こえた······
「ましてや、心に決めた存在ならなおさらです」
「······」
副会長、すみません。
俺はあなたになにもできません。
本当にごめんなさい。
俺は心の中で副会長に謝罪するしかなかった。
「ああ、それと」
ペンを止めたリカルドが魔王に······
「マヒル様とトールを召喚した国ですが、王族と1部の高位貴族を惨殺してきました」
爆弾発言をしてきた。
ざ、惨殺······?
「王族全員? 王弟や王妹とかは?」
「王弟は3人中1人しか生き残っていません。王妹は5人全員が国外に嫁いでいますのでなにもしておりません」
「そっか」
そしてこっちは軽い。
というか······
「てことは、あのクソジジイ······小太りで偉そうなオッサンの王様も殺したってこと?」
「はい」
うーん。
魔の森に捨てられたあと、大声で不幸になれって呪ったんだよなぁ。
関係ないよな······?
「マヒル」
「ん?」
「あれが死んだのは自業自得だよ。マヒルには一切関係ないし、忘れていい存在だから」
「······そうか」
たしかに、俺は関係ない。
俺はを人を呪う力なんてないし、ここは仕方ないと無理矢理片付けよう。
あいつはただの誘拐犯だし、会った総合時間は30分もない。
悲しみに浸るほど親しくもないし、嫌悪感しかなかった。
でも少しだけ、そんな自分が薄情な人間だと感じてしまった。
「ねぇ、リカルド。少しだけ席を外してもらっていい? 休憩してていいから」
「仰せのままに」
リカルドはすぐに執務室を出ていった。
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