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風邪 side:リューイ
【皆に好かれる素敵な魔王様】
それが僕の目指す魔王。
歴代の魔王たちは十人十色。
お人好しな魔王
冷酷無慈悲な魔王。
趣味にしか興味がない魔王。
フットワークが軽い魔王······
『おいで、リューイ』
フットワークが軽い魔王は先代様の魔王のこと。
僕は先代様のことを"王様"と呼んでいた。
優しい黄緑の髪と目が印象的で、王様は僕にとって恩人。
なぜなら王様は······
「ほら、リューイ。あーん」
「あーん······ん、美味しい······!」
口の中に広がる冷たさ。
氷かと思ったけど口溶けがふんわりとしていて、甘い。
「アイス。死ぬ気でかき混ぜて作ったんだ。うまいだろ」
どこか自慢気に話すのはマヒル。
先月、結婚式を挙げた僕の可愛いお嫁さん。
ドレスを着せようとしたら怒られたという思い出もあるけど、2人きりの時は着てくれたんだよね。
お願いしたらまた着てくれるかな?
「うん。もっとちょうだい」
「はいはい」
マヒルは器の中にある白い物─アイスをスプーンで掬っては僕に食べさせてくれる。
いつもなら給餌行為は僕の役目。
でも今日はマヒルがしてくれる。
なぜなら······
「これでも食って夏風邪を治せよ」
「うん」
現在、僕は風邪で寝込んでいるから。
何十年ぶりだろう······
多分大丈夫と思って仕事してたのもあって、悪化したのかな?
咳とかは大丈夫だけど、昨日は廊下で倒れちゃったし。
「いいか。風邪は万病の元と言われてるし、すぐにぶり返す。いくら、今平熱だからと楽観視して仕事したら、今度は縛って転がすからな」
「僕、緊縛プレイはちょっと······」
「変な言い方をするな。俺もそんなプレイしたくないわ」
「え? じゃあ、されるのは──」
「3日間抱っこ禁止の刑に処すぞ」
マヒルは僕を睨む······が、アイスを食べさせるのはやめない。
優しいなぁ。
マヒルと出会って結構経つので、僕はマヒルがいわゆる"ツンデレ"というものだと理解している。
いつもツンと冷たいけど、時々デレる子のこと······マヒルを表すのにピッタリな言葉だ。
「ほら、食ったら寝る。病気の時は食って薬飲んで寝て、起きたら我が儘言ってまた寝るが1番だ」
「我が儘?」
寝たり食べたり薬を飲む必要性はわかる。
でも我が儘はいらないような······
「これがいるんだよ。病気になるとメンタルが不安定になるのは珍しくない。そういう時は頼れる奴に我が儘······一緒にいたいとか言えばいい」
「······」
マヒルはそう言いながら空になった器などをお盆に載せる。
「ま、そういうことだ。寂しくなったら誰でもいいから頼れ。はい、おやすみ」
「うん。おやすみ」
「······ああ」
僕はマヒルが出ていった扉を少しの間だけ見つめた。
我が儘、かぁ······
「マヒルに言ったら、怒られるかな······?」
"傍にいて"って······
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