風邪 side:リューイ

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 「······怒られそうだなぁ。あんまりベタベタしたらマヒル怒っちゃうし」  広い広いベッドには当然だけど僕以外誰もいない。  ベッドって、ここまで広かったっけ······?  マヒルをここに連れてくるまでは1人で使っていたはずなのに。  いつの間にか2人で寝ることが当たり前だと思うようになっていた。  「マヒル······」  短く切られた黒髪。  少しだけ大きい黒い瞳。  素朴な顔立ちと雰囲気。  マヒルは僕の好みにドストライクで、一目で運命だと感じた。  しかもジョブが"無職"ときた。  "無職"ならジョブが"魔王"の僕の伴侶になれる。  まさに、僕のためのお嫁さん。  そんなマヒルの故郷はここから······ううん。  この世界からとっても遠い所にある。  マヒルのご両親はその故郷にいる。  もう2度と会わせてあげられない。  『なぁ、本当に俺は元の世界に戻れないんだよな?』  それは僕がマヒルと友達になって数日後に聞かれた質問。  これに僕は"戻れない"と答えた。  もちろん、嘘じゃない。  そもそも世界を渡るというのはとても危険な行為。  途中で狭間に落ちたら死ぬし、無事に渡れても魂が合わないとすぐに弱って死んじゃう。  先々代の魔王ならできたかもしれたいが、僕はそこまで魔法に長けていない。  それに······マヒルが元の世界に帰っちゃったら僕はまた1人ぼっちになっちゃう。  だからもし安全に戻れる方法があっても僕はマヒルに隠していた。  そんなズルい自分が嫌になる。  『俺も好きだ。お前が俺を幸せにしてれる分、俺もお前を幸せにする』  マヒルの目に嘘はなかった。  あの言葉はマヒルの本心。  でも······  『いいですか。君が僕に好意を寄せるのは······産まれたばかりのヒナの刷り込みと同じです。君を地獄から救ったのがたまたま僕で、君はそんな僕を恩を感じて慕っているだけです』  マヒルは僕に頼るしかなかった。  この世界は弱肉強食で、聞いたマヒルの故郷みたいに安全じゃない。  人族は魔族と比べてすっごく弱くて儚い。  ましてや、マヒルのジョブは"無職"。  ほかのジョブの影響を受けない代わりにスキルなどがない。  人族はジョブ至上主義だからマヒルが働くことは難しいのが現実。  だから、ちゃんとわかってる。  マヒルは昔の僕と同じだって。  『王様! この本を読んでください!』  『いいですよ。ほら、隣に座ってください』  ああ、嫌だなぁ。  こういう時ほど嫌なことをグルグル考えちゃう。  早く寝ちゃおう······  僕はそう決め、ゆっくりと目を閉じた。
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