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王様は良く言えばすぐに行動をする人、悪く言えばいつもフラフラする人だった。
災害や疫病で困ってる地域があったらすぐに対処する。
定期的に城の外に出て民の生活を見る。
ふらりと他国······人族の国に行ったりもする。
当時の宰相はそんな王様に注意をしていたが、王様は変わらなかった。
でも皆、そんな王様が好きだった。
民も宰相もその息子のリカルドも、もちろん僕だって。
「リューイは将来、どんな人をお嫁さんにしたいですか?」
「王様じゃ駄目なの?」
「駄目です。僕はリューイのお嫁さんにはなれません。ほかの人をお嫁さんにしましょう」
王様のことが好きだった。
でも王様は駄目だと言う。
だから僕は······
「······素朴で平凡な人がいいかな」
「素朴?」
「うん。僕、派手な人は苦手だから、傍にいてほっとできる感じの子がいい」
「そうですか。できれば、リューイの未来のお嫁さんが世話焼きな方だといいですね」
「どうして?」
浮気性な人じゃないならいいかなってレベルで、性格はそこまで気にしていなかった。
「魔王というのは大変な仕事なんですよ。無理をしないといけない時があったり、心が折れそうな時があります。そういう時におせっかいだと思えるくらい面倒見の良い方がいたら嬉しくないですか?」
「そうなのかな······?」
僕にとって王様は親であり、教師であり、好きな人だった。
お嫁さんは駄目と言われたけど、それでも一緒にいられることに変わりない。
それだけで充分、幸せだった。
こんな幸せが永遠に続けばいい······そう思っていた。
僕が突然救われて幸せになったように、不幸も突然やってくる。
「リューイ、すみませんね」
王様が倒れた。
医者が言うには、もう余命いくばくもないとのこと。
「王様、死なないで。お願いだから······!」
ずっと傍にいて。
僕を置いて逝かないで。
僕も一緒に連れてって。
僕はベッドに眠る王様に泣きながら訴えた。
しかし、王様は首を横に振る。
「それはできません。どんな者にも死は訪れます。そして、リューイは僕がいない世界でも生きないといけません」
「······っ! じゃあ、僕を殺してよ!」
その頃の僕は成人間近で、自分の役目を理解していた。
魔王は魔族たちを束ねる必要不可欠な存在で、後継者が産まれるまでは死ぬことはできない。
寿命を無理矢理止めることになるからだ。
······だけど、実際は死ねる方法があった。
勇者か、同じ魔王なら後継者がいなくても魔王を殺せる。
だから王様なら僕を殺せる。
そしたら······
「僕が死んだら、王様が生きられるよね······!? 魔王はまた王様しかいなくなるから。だから──」
「駄目です。私はもう充分生きました。だから幼いリューイが犠牲になる必要はありません」
「でも、僕が今幸せなのは王様がいたからで······」
あの自分の手すらもうっすらとしか見えない牢屋。
そこから僕を出して、今日まで生きられたのは間違いなく王様のおかげ。
たとえ、僕が王様の後継者だったからの救いでも関係ない。
助けてくれたことに変わりはないから。
すると王様は泣き続ける僕の頭に手を置いた。
そして穏やかに笑い······
「そうですね。では······×××だけ連れていきましょう」
残酷な言葉を言った。
王様が連れていくと言ったのは······昔の僕の名前。
でも今の僕は"リューイ"であって、×××じゃない。
「×××の頃のことはすべて忘れなさい。これからは"リューイ"としての思い出だけを糧に生き、幸せになりなさい。それが僕からの最期の願いです」
王様はそう言って、次の日に永遠の眠りについた。
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