頭のおかしい男

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頭のおかしい男

 「なら、僕の所に寄生する?」  「は······?」  俺は驚いて立ち上がり、声をかけてきた奴を見た。  そして······思わず目を見開いて固まってしまった。  なぜならそいつは、副会長とタイプもレベルも違う美形の男だったから。  副会長は芸能人と張れるほどの爽やかな感じのイケメン。  対してこの男は、芸能人が裸足で逃げるであろうキラキラした感じのイケメン。  腰まである、真っ直ぐな紫がかった黒髪。  長いまつ毛に縁取られた、スッと切れ長い赤い瞳。  日焼けをしていない白い肌に190センチはありそうなほど高い身長。  日本人とは違い、彫りの深い顔立ち。  普通の人が着たら違和感が生まれるであろう、豪華で華美な装飾をされた漆黒を基調とした服。  そして中でも1番目を引くのは······  「つ、ツノ······!?」  頭に生えた、漆黒の捻れた立派なツノ。  さすがは異世界。  やっぱり、普通に人外っているんだな。  「クスッ」  「?」  男はなぜか笑った。  しばらく口元を押さえて笑いを堪えている様子。  どうした?  「長い時を生きてきたけど、まさか僕に出会って開口1番の言葉で『ツノ』が出てくるなんて······」  「は、はぁ······」  じゃあ、普段はなんて言われるんだよ?  俺はブツブツと呟く男を見ている時、ふと思い出す。  そういえばこの男、さっき"僕の所に寄生する?"と言ってなかったか?  この女に困らなさそうなイケメンが、俺に······?  「やっぱり、この子は僕の運命だ······今日は人生で1番幸せな日だよ。仕事サボってここにきたけど、まぁ大丈夫でしょ。こんな奇跡、2度ないし······」  ······よし、逃げよう。  俺はそう強く決めた。  多分こいつ、頭のおかしい変質者だ。  お袋が言っていた。  異世界召喚されたあとの悪い奴らに捕まって奴隷にされるのはよくあると。  そのあと幸せになるかは奴隷を買う攻めと物語次第らしいが、俺は男と恋愛する気はこれっぽちもない。  それにお袋のBLあるある以前に、知らない奴について行くのは普通にヤバい。  特にここは異世界。  人身売買が横行していてもまったく不思議ではない。  "運命"とかなんか言っているが、それに関しては興味の欠片もない。  ここは逃げるのが吉······  俺は未だにブツブツと呟いている男からゆっくり後ろに下がり、距離を──  「あれ? どこに行くの?」  「っ!?」  ふわっと体が宙に浮き、視界いっぱいに男の整った顔が入った。  これって横抱きか······!?  俺は逃げようと必死でジタバタする。  しかし男は余裕で俺を抱えたまま嬉しそう。  「すごい······! 元気がいいね······嬉しいなぁ」  な・に・が、嬉しいんだよ!?  こっちは大迷惑だし、さっさと降ろせ!  「やっぱり、君は僕の運命だ。ねぇ、僕に君の名前を教えて」  男はそのキラキラした笑顔で俺にグッと顔を近づけてきた。  その顔を見るとなぜか動悸が速くなるので、俺は視線を逸らして答える。
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