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「天野真昼······」
「アマノマヒル? 変わった発音だね。服も初めて見る形だし、異国の子かな?」
「まぁ、そんな感じ。あと、天野が名字で、真昼が名前······」
なんで俺、初対面で怪しさ100%のこいつに軽々しく名前教えてんの?
でも現実問題、こいつに抱き上げられているから逃げられないんだよなぁ。
かといって抵抗して暴れて、万が一落ちたらケガすること間違いなし。
普通に詰んでる。
「君のことはマヒルって呼んでもいいかな?」
「お、お好きどうぞ······」
俺の言葉に男はパァッと効果音が出てきそうなほどの笑顔を見せた。
たかが名前で大袈裟すぎる気が······
「嬉しい。僕のことも"ダーリン"でも"旦那様"でも好きなように呼んでいいから」
「······」
このイケメン、頭涌いてるのか?
どう反応すればいいかわからず、俺は固まる。
「よろしくね、マヒル。さっそくだけど行こうか」
満面の笑みを浮かべる男に俺はおそるおそる尋ねる。
「行くって、どこに······?」
「僕のお城だよ」
「お城······」
じゃあ、つまりこいつは王族?
しかも"僕のお城"ってことは······
「あんた、職業は王様······?」
「違うよ」
男は首を横に振り、俺はほっとする。
ああ、良かった。
こんな頭がヤバい奴が治める国とか普通に怖い──
「僕の職業は"魔王"だから」
「まっ······!?」
魔王っ!!?
俺は驚きすぎて口をあんぐりと開け、言葉を失った。
人間、驚きすぎると逆に叫べなくなるんだと初めて知った瞬間だった。
「驚きすぎ。可愛いね♡」
だって、魔王って······
あのクソジジイ、魔王からこの国を守れとか言っていたんだぞ。
その魔王が、なぜか俺を横抱きにして名前を呼んでいる。
てか、"可愛い"?
頭だけじゃなくて、目も悪いのか?
いや、そんなことよりも逃げないとかなりまずい。
最悪の場合、生贄にされる······
「あの、俺に拒否権は······?」
「え? なんで拒否するの?」
逆質問するな!
そして、俺がなんで拒否しないと思った!?
「うーん。まぁ、拒否権はあるよ」
「!」
あるのか!
じゃあ、さっそく──
「拒否する権利はあるけど、それじゃ僕を止めることはできないしね」
「······」
ニコニコと笑う男の言葉に俺の希望は粉々に砕け散った。
「さて、僕のお城に行こうか。マヒルもきっと気に入ると思うから」
······頼む。
誰でもいいから俺に教えてくれ。
この色々とヤバい魔王らしいこの男から逃げる方法を······
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