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魔王城
人生とはなにが起こるかわからない。
幸福から不幸へ。
平穏な生活から不穏な生活へ。
突然の出来事で人生が大きく変わることは誰にだってあり得る。
特に変わった所(両親は除く)がない俺にもそれは当てはまる。
だから、異世界に召喚されたのも、自分のジョブが"無職"なのも仕方ない。
かなり、か~なり不服だが、これは仕方のないこと。
これが自分の運命だと割り切らないといけないんだ。
そして一方的に召喚されたのに捨てられ、これからの寝床や食事などの生活に困っていた俺が······
「ここが僕のお城。今日からマヒルの家でもあるから、緊張しないで暮らしてね」
魔王だという頭のおかしい男に誘拐され、ファンタジー感溢れる城に連れていかれたのも仕方ない······
仕方、ない······
そう、仕方のない······
「ほしいものがあるなら揃えるよ。あっ寝室のデザインに希望はある? ベッドはキングサイズなのは決定事項だけど」
······やっぱ無理だっ!
俺は自分の頭と心に仕方ない仕方ないと言い聞かせるが、やっぱり割り切るなんてできない。
心はずっと全力で逃げたいと思っている。
「あのさ、お前は──」
「"ダーリン"か"旦那様"」
「············だ、ダンナサマは、なんで俺をここに······?」
ここは大人しく、大人しく······
キレても損しかないし、魔王に逆らっても良いことなんてない。
ここは従順なフリをして、生き延びるを方法を探すのがベストだ。
「もちろん、マヒルが僕の運命だからだよ」
「う、運命······」
「うん。僕は今、最高に幸せだよ」
俺は今、最高に不運だわ······
ゲンナリする俺とキラキラと笑う魔王。
すると魔王は俺のこめかみに唇を当て、チュッとリップ音を立てた。
「っ!?」
「僕はマヒルのためならなんでもするよ。君が望むなら、世界だって滅ぼしてあげるから」
「······」
ヤバいヤバいヤバい!!
こいつ、頭がおかしい上にとんでもない奴だ!
冗談、だよな······?
『真昼って昔から変な男に狙われるから気をつけなさいよ。私は別に彼氏を連れてきていいけど、ヤンデレになると扱いが色々あって困るから、できれば執着心が少し強いだけの彼氏にしてね』
お袋よ、ヤンデレってこいつみたいな奴を差すのか?
こんなことなら、お袋が勧めてきたBLマンガを読んでおくんだった······
そしたらこの男と対処に悩まなかったかもしれない。
······わかってる。
後悔してもしょうがないってことくらい。
とりあえず俺は魔王を下手に刺激しないよう、言動に気をつけるしかない。
「い、いや~、世界滅ぼしたら死んじゃうからしないでほしいな······」
「それもそうだね。せっかく出会えたんだ。これからはずっと一緒だよ」
······果たして、俺はこいつから逃げられるのだろうか。
だんだんと怖くなってきた。
こいつに世界を滅ぼすの力があるのかないのかがわからない。
ないならいいが、もしできるなら······
俺の頭の中に"死"の文字が埋め尽くされた。
気絶したい······
起きたら全部夢オチがいい······
「マヒル、どうしたの? さっきから震えているけど」
「い、いや······」
「寒い? それとも、なにか怖いことでも思い出したの?」
お前が怖いんだよ!!
······と言ったら殺されるかもしれないので、俺は愛想笑いを浮かべるしかない。
ああ、なんでこうなった······?
俺、前世なんかで非人道的なことをやらかしたのかよ。
もう神様でも仏様でも誰でもいいから助けてくれ······!
俺が人生で1番と言っても過言ではないほど強く、そして必死に祈っていると······
「魔王様、どこに行っていたのですか?」
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