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「っ!?」
突然、魔王がビクッと体を震わせた。
ん?
どうした······?
魔王がゆっくり振り返る。
そこにいたのは······
「······やぁ、リカルド」
「『やぁ』ではありません。この忙しい時期に仕事を放り投げて失踪······一体どういう神経をしているんですか」
1房だけ白い黒髪を1つに束ねて肩に垂らした黒い目の男が立っていた。
メガネをかけたこいつにもツノがあり、喋り方や雰囲気で厳しそうな人だと印象を抱く。
するとメガネは俺を見て眉を潜めた。
「しかも、どことなく怪しげな人族を拾ってきて······見慣れない服装ですが、異国人ですか?」
「多分ね。あと、拾ってきたんじゃないよ、リカルド。そんな犬猫みたいに言ったらマヒルに失礼だよ」
なんか、初めてこいつがまともなことを言った。
まぁ、たしかに"拾った"は正しくない。
正確には"誘拐"され──
「僕のお嫁さん。寄生したいって言っていたから連れてきたんだよ」
「バカ野郎!!」
「は?」
お前の言い方も失礼以外のなにものでもないから!
リカルドという名前の男は冷たい声を出し、こめかみには青筋を立てている。
「魔王様、その人族は元いた場所に返しましょう」
「嫌だ」
いや、できれば男の言う通り返して。
しかし魔王は俺をぎゅうぅっと抱き締めて離さないと意思表示をする。
「マヒルは僕のお嫁さんだから返さないよ」
「ダメです。この者のせいで魔王城の財政が傾いたらどうするんですか?」
「『メッ』って叱る」
「バカですか?」
これにはさすがの男もガチトーンで返した。
うん、気持ちはわかる。
財政を傾けた時の叱り方が軽すぎる。
俺もあんたの立場だったら同じように反応すると思う。
そんな俺と男の心情に気づかず、魔王は言った。
「お嫁さんだから甘くして当然だよ。もちろん、浮気したら目の前で相手を八つ裂きにして監禁&快楽漬けにするけど」
財政を傾けた時との対応に天と地の差があるし、普通に怖い······
あと重い······
「そもそも、魔王様が伴侶を持つのは難しいことは魔王様自身がわかっていることでしょう」
「それは、わかってるけどさ······」
あー身分とか?
王様だしな。
てか、魔王の嫁になりたい奴っているのかがまず疑問だけど。
「わかっているのなら──」
「でも、マヒルなら多分大丈夫だよ! 僕の運命だから!」
「ほぉ······」
男が俺を品定めするように観察する。
頼む······!
ここでダメですと言ってくれ······!
「······たしかに、見た目は魔王様にドストライクですね」
「でしょう!」
「······」
お前、頭と目じゃなくて趣味が悪いのかよ······
これほどの顔なら女も男も選り取り見取りなのに。
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