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宗田文雄の話
俺はこの世界に救われた。いや、救いようがない俺を、出来損ないで売れ残った金魚のような俺を、掬ってくれたという方が正しいかもしれない。自分の命が他人にとやかくされる時代だったらと思うとぞっとする。だって死ねないんだぜ?どんなに無様になろうが、生き続ける罰ゲーム。気が狂っちまいそうだ。だが他人にちょっかい出されるのもまっぴら御免だ。
別に俺だって、ハナから諦めていたわけじゃねぇ。とち狂った母親に育てられて、人生ハードモードかって嘆いてたけど、どうにかこうにか大人になって、そこそこの仕事にも就けた。奥さんや子どももいて、そこそこ上手く行ってるときなんかもあったんだよ。だが、我が世の春はあまりにも短かった。
職場も家族もある日急におかしくなっちまった。人の物盗むわ、カメラしかけて監視までして、あげく殺害予告までしやがった。だから俺は逃げて逃げて逃げまくった。山の奥まで、誰にも見つからない場所まで。いつしか、病院のベッドに括り付けられててよ、あれはびっくりしたね。縛られたまま変な薬とか、電気とか流されてよ、ふざけんなーって思ってたけど、だんだんだんだん気づいちまったのよ。狂っちまったのはさ、俺のほうだったのよ。
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