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宗田文雄の話②
病院から出たらもう何も俺にはなかった。きつかったのは、失ったことじゃなくて、最初から何もなかったことだ。医者、役所、警察、みんな口を揃えて言うんだ、あなたが入籍された記録はありませんって。信じたくないけど、もう無理なんだ。もう諦めちまった。
小綺麗な駅ビルの10階。受付を済ませ、案内された会議室。俺の他にも自殺志願者がちらほら。配布された資料にはお決まりの『そうだ、あの世へ行こう』の文字。お疲れ様、俺。もうよくやったっしょ。アナウンサーみたいな若い女が淡々と事業説明を開始した。
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