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「いや、オレのは4億人は下らないよ。一週間も禁欲したんだから」
「もう、裕司ったら。その方面ではえらい自信家なんだから」
私は、くすくすと笑ったあと、目をつむってせがむように唇を突き出す。夫はそこにチュッと小さなキスをくれると、ベッドを降りシャワー室に向かった。私は夫の勇姿を見おくる。背中に負った左右対称四本ずつのひっかき傷が、天使の翼に見える。勇者には似合わないなと思いクスッと笑ってしまった。
「3億人のちびっ子マラソン大会」といったのは母だった。
小学生の時、何をやってもさえなかった私は、勉強はクラスの中間よりちょっと下。 授業中先生に指名されても、下を向いてもじもじするばかり。体育に至っては最悪だった。いつも跳び箱の上で尻もちをついたし、平均台から足を踏みはずしけがをしたこともある。水泳の時間は何年生になってもバタ足グループだった。
そんな私は六年生のとき、運動会の徒競走でビリだったのを、クラスの男子にからかわれた。それも、まるで当てつけのように、あこがれの須藤君の前で。
「そういやあ、四年生の時も五年生の時も、おまえビリだったよな!」
今年の運動会の話が昨年、さらに一昨年へと、勝手に時間軸をさかのぼっていく。それに比例してみじめさも滲み広がってゆく。私が須藤君のことが好きなのを知ってわざとそうしているのか、いじめっ子たちは彼の前で次から次へと私の恥ずかしい過去を暴露してゆくのだった。
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