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と、ふてくされたように言い捨てた。
「そりゃあ、覚えてないわよ。生まれる前のことだから。でもね…」
母はここで人差し指を立てた。私は緊張して背筋を伸ばした。すると、「ひくっ」と一つだけ、赤ちゃんのようなしゃっくりが漏れた。
「この世に生まれてこれるのは、この競争で一番になった子だけなの。一番になれなかったらみんな背中に羽が生えて、どこか違う世界へ飛んで行ってしまうの。だから、この世には生まれてこれない。それに優勝したんだから、美歩ちゃんはすごい子なのよ」
さっぱり実感が湧かなかった。三億人で一番になれた子がどうして運動会でいつもビリなのだろう。どうして勉強で一番になれないのだろう。
「それはね」テーブルに両肘をついて乗り出してきた母は、とても慈愛に満ちた顔でいった。「美歩ちゃんのお友だちって、みんな『3億人の大マラソン大会』の勝利者だからなのよ」
その言葉をきいて、私はむなしくなった。
「みんなそんなにすごい人たちなら、私なんて到底勝てるわけないじゃん!」
惨めな感情と同時に涙があふれてくる。ああ、私はやっぱり永遠にビリを運命づけられた惨めな人間なのだ。とても学級委員の須藤君とは結婚できそうもない。
「そうよ。みんな優秀な子なんだから、勝つのは難しいわね。だから…」母はまたさっきのように私の目の前に人差し指を立ててつづけた。「勝つ必要なんてないのよ」
「は?」
目が点になった。母は間の抜けた私の表情を見て心の中で吹き出しているに違いない。
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