お母さんになるの。

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 ピルをやめてそろそろ半年になる。 「おーい、キミたちぃー、いまどのへん?」  二段重ねの枕に頭をあずけた私は、両手を丸めたメガホンで自分のおなかにささやきかける。ほんとうは「どの子もがんばれー」と大声で応援してあげたいのに、キミたちの姿が見えないからお母さん(えへっ、私、お母さん?)はじれったい。 「こらこら、からだを冷やしたら、がんばりたい子もがんばれなくなっちゃうぞ」  裕司の声はアニメのお父さん役に似ている。私のからだをていねいにバスタオルでおおい、その上にさらに薄い毛布をかけてくれる。夫になったばかりの彼の細やかな気遣いがうれしい。広くてぶ厚い手のひらを下腹部にのせてもらうと、妻へのいたわりがじわじわと染み通ってきて、心もからだもぬくぬくとしてくる。 「熾烈な競争なのよね?」 「そうだなあ。なんせ、いっぺんに4億匹がスタートするんだからなあ…」 「なんていわないで。私たちの赤ちゃんになる子たちなのよ。リスペクトしてほしいわ。っていってほしいの」  私はいじけたような上目遣いで夫を見る。 「ごめん、ごめん。じゃ」  くすっと笑って、妻の鼻の頭をつんつんと指の腹で叩く夫。これをされるといつも祐司のこどもになったような気分になる。祐司の妻でありながらこども…。それは疑いなく誇らしく嬉しい感情だ。 「それにね」私は祐司の手に自分の手をのせて忠告する。「4億人もいないから。多くて3億人だってさ」
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